特集:IoTがもたらす製造業の革新〜進化する製品、サービス、工場のかたち〜

現代家庭は既にミッションインポシブル、パナソニックが目指す家事解放の新たな形製造業がサービス業となる日(1/3 ページ)

パナソニック ホールディングスは「くらしのウェルビーイング」の実現に向けた取り組みを強化。2022年7月29日には、同社 代表取締役 社長執行役員 グループCEOの楠見雄規氏、執行役員でくらしソリューション事業本部長である松岡陽子(ヨーキー松岡)氏が共同インタビューに応じ、これを実現する1つの取り組みとして、Yohanaサービスについて説明した。

» 2022年08月09日 13時00分 公開
[三島一孝MONOist]

 パナソニック ホールディングスは「くらしのウェルビーイング」の実現に向けた取り組みを強化。2022年7月29日には、同社 代表取締役 社長執行役員 グループCEOの楠見雄規氏、同社 執行役員でくらしソリューション事業本部長である松岡陽子(ヨーキー松岡)氏が共同インタビューに応じ、これを実現する1つの取り組みとして、Yohanaサービスについて説明した。

「くらしのウェルビーイング」に取り組んできたパナソニック

 パナソニックグループでは2022年4月の新体制に合わせてブランドスローガンを「幸せの、チカラに。」に刷新。具体的な方向性として「地球環境問題の解決への貢献」と「心身ともに健康で幸せな状態を『くらし』と『しごと』において実現(ウェルビーイング)」の2つを示している。

photo パナソニック ホールディングス 代表取締役 社長執行役員 グループCEOの楠見雄規氏

 パナソニックグループにとって、このくらしのウェルビーイングは家電分野などを含めてずっと以前から取り組み続けてきた領域だ。楠見氏は「パナソニックグループでは家電の技術力やモノづくり力などをはじめ、その時々の技術でくらしのウェルビーイングに貢献してきた」と述べている。ただ、家庭の在り方や働き方、価値観なども変化する中でくらしのウェルビーイングに求められることも変わってきている。そこで「顧客に近づき声を聴いてニーズを先取りし、ユーザーファーストで価値を生み出していくことが必要になる」(楠見氏)とし、その1つの取り組みが松岡氏が推進する「Yohana」だと位置付けている。

photo パナソニック ホールディングスが考える「くらしのウェルビーイング」の価値観の推移[クリックで拡大] 出所:パナソニック ホールディングス

家庭の雑事をトータルでサポートするサービス

photo パナソニック ホールディングス 執行役員でくらしソリューション事業本部長である松岡陽子氏

 Yohanaを立ち上げた松岡氏は日本で生まれたが中学生以降は米国で暮らし華々しい経歴を持つ。カリフォルニア大学バークレー校を卒業後、マサチューセッツ工科大学(MIT)で電気工学、コンピュータ科学の博士号を取得した。その後、ハーバード大学博士研究員、カーネギーメロン大学教授、ワシントン大学教授として、人体や脳のリハビリを促すロボット開発などを行ってきた経歴を持つ。2009年にはGoogle Xの共同創設者となった他、2010年にはNest Labsに参画(その後、Googleが買収)。Apple副社長、Google副社長、Hewlett-Packardの取締役を歴任後、2019年にパナソニックに入社した。

 ただ、こうした経歴を持つ中でも松岡氏本人が掲げるミッションは「家族のウェルビーイングを高めるテクノロジーを生み出す」ということで一貫していたという。「パナソニックから話が来た時に、大阪のパナソニックミュージアムに訪れる機会があった。その中で創業者である松下幸之助氏が家電を世に送り出した理由として『女性たちを家事から解放した』ということを述べていた話を聞いて、まさに私が取り組んできたことと共通していると感動した。さらに、パナソニックでは家電から電気配線機器まで長年にわたり蓄積されたノウハウや組織力、製品などがあり、こうした企業は世界中を見ても他にはない。そこで一緒にやりたいと考えた」(松岡氏)。

 Yohanaは「今を生きる家族にこれからの支え合いのスタイルを。」をミッションとし米国で立ち上げた企業で、2021年9月からパーソナルアシスタントサービス「Yohana Membership」の提供を開始した。Yohana Membershipは、非日常を支えるカード会社のコンシェルジュサービスなどと異なり、ユーザーの日常のさまざまな雑務を助け、支えていくサービスである。月額249ドルで提供し、ユーザーは、スマートフォンアプリの「Yohanaアプリ」に、掃除や自宅のメンテナンス、子供の習い事や課外活動など、こなさなければならないさまざまな用事を入力し、チャットなどを通じて解決を依頼できるというものだ。情報の整理などでAI(人工知能)などを活用しているものの、アシスタントして実在の人間が就くため、柔軟な課題解決が可能となる他、継続的な信頼関係を構築できる点も特徴だとしている。

photo Yohanaメンバーシップで活用されている代表的な事例[クリックで拡大] 出所:パナソニック ホールディングス

 松岡氏は「現代の家庭はやらなければならないことが増え全てを完璧にこなすのは不可能な状態となってきている。私自身も共働きの状態で、4人の子どもを育て、親の面倒も見ていて、やるべきことが非常に多い。そういう忙しくて苦労している家族たちの負担を代わりにやってあげ、ウェルビーイングを守り、ありたい暮らしを与えてあげる。そういうことを目指している」と語る。

photo 日本におけるYohana MembershipのウェイトリストのWebサイト[クリックでWebサイトへ] 出所:パナソニック ホールディングス

 実際に、2021年9月から先行してリリースした米国シアトル地域では1000世帯以上の家族において、合計2万件以上のタスクを処理し、家族に週8〜10時間の可処分時間を生み出すことができたという。「うれしかったのが、ユーザーの声として、当初目指した通りの反応を得られたことだ。『息子たちと一緒にいられる時間が増えた』や『我が家の一員として必要な時にいつでも頼れる存在だ』『Yohanaのおかげで驚くほど気持ちが軽くなった』などの声を多くもらうことができた」と松岡氏は述べる。

 これらの高評価を受け2022年6月からロサンゼルス地域でも展開を開始。さらに2022年4〜6月には日本でも数十人を対象にフィールドテストを実施しており、2022年中に本格展開を開始する計画だ。既に2022年7月29日には事前登録を行えるウェイトリストを公開している。松岡氏は「日本でのサービスの詳細はまだ話すことはできないが、異なる点もあるものの大きくは日本でも同じようなニーズがあることが把握できた」と語っている。

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