燃料電池の内部の水を可視化、実機サイズのセルで撮像時間は1秒燃料電池車

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は2022年7月12日、パルス中性子ビームによる車載用燃料電池セル内部の水の可視化に成功したと発表した。パルス中性子ビームを用いて実機サイズのセル内部の水挙動を明らかにするのは「世界初」(NEDO)だとしている。

» 2022年07月14日 06時00分 公開
[齊藤由希MONOist]

 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は2022年7月12日、パルス中性子ビームによる車載用燃料電池セル内部の水の可視化に成功したと発表した。パルス中性子ビームを用いて実機サイズのセル内部の水挙動を明らかにするのは「世界初」(NEDO)だとしている。

 今回の成果を活用することで、燃料電池の性能を左右する生成水の挙動を速やかに把握し、製品開発にすぐに反映できるようになる。また、最適な燃料電池セルや流路構造の開発を加速し、燃料電池のさらなる高性能化や低コスト化が期待できる。

 NEDOの「燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究開発事業」の一環で、高エネルギー加速器研究機構、日本原子力研究開発機構、J-PARCセンター、日産アーク、技術研究組合FC-Cubicが参加した。豊田中央研究所、本田技術研究所、トヨタ自動車も協力している。

パルス中性子ビームによる車載用燃料電池セル内部の水の可視化の概要[クリックで拡大] 出所:NEDO

 燃料電池では、発電時に生成された水が燃料電池セルの内部に滞留すると水素や酸素の供給経路をふさぎ、発電性能の低下につながるのが課題となっている。そのため、セル外に水を効率的に排出できるセパレーターの流路や電極構造の開発が進められている。

 今回の研究開発事業では、大強度陽子加速器施設(J-PARC)において中性子イメージング用撮像機器の高度化と撮像条件の最適化、発電評価装置の構築が完了。パルス中性子ビームを用いた実験系としては世界初となる、実機サイズ(約300cm2)の燃料電池セル内部の水の挙動をほぼリアルタイムで可視化することに成功した。検証は、トヨタ自動車の燃料電池車(FCV)「MIRAI」の実機セルを使用し、発電時のセル内部の水の生成、排出の挙動を直接観察した。

 微弱な光を検知、倍増する光イメージインテンシファイアとCMOSカメラを用いた撮像機器の高感度化および撮像条件の最適化を図ることで、パルス中性子を利用して、研究用原子炉にある実験装置と匹敵する可視化性能を実現した。その結果、実機サイズの燃料電池セル内部の水の挙動を、約300μmという高い空間分解能を維持しながら、従来の10分の1以下となる1秒間の撮像時間で可視化することに成功した。

 これにより、燃料電池セル内部の0.5mm以下のガス流路溝内の水の挙動をほぼリアルタイムで可視化できる。またパルス中性子の特徴を生かすことで、燃料電池セル内部の水と氷の識別や、水のミクロな挙動とその詳細な解析を組み合わせて可視化するなどのさまざまな応用や利用に展開できる。

 中性子は高い物質透過能力を持ち、水などの軽元素に対する感度も高いことから、非常に厚い金属板で拘束されている車載用燃料電池セルの内部に生成された水の挙動を直接観察することができる唯一の技術として期待されてきた。しかし、実機サイズである大面積の燃料電池セル内部の水を可視化できるのは国外の研究用原子炉など大強度中性子実験施設に限られていた。

 国内では小型のモデルセルでの観察に成功しただけであり、国内施設で実機サイズの燃料電池セル内部の直接観察が期待されていた。国内でもJ-PARCで大強度パルス中性子を生かしたエネルギー分析型イメージングなどの最新の技術開発が積極的に行われてきたが、研究用原子炉に設置された中性子イメージング装置と比較して平均中性子強度が劣ることが課題として残っていた。

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