多くの企業は、モノやサービスを売ることで対価を得ています。DXの実現はそれだけではなく、モノやサービスから得られるデータや自社の事業基盤を新たな収益源として活用することを可能にします。
例えば、クルマにIoT(モノのインターネット)デバイスを装着することが考えられます。いつどこを走行したのか、どこでどのような点検、修理を受けたのかを把握できるようになれば、中古車の品質をより厳正に保証できます。自動車保険の料率に反映させることはもちろんのこと、自動車の開発にも生かせるはずです。将来的には、クルマに取り付けたセンサーを活用して地図をアップデートできるようになるかもしれません。このデータを外販できれば、自動車メーカーはクルマを売ること以外での収益を得られるようになります。
モノを提供するために構築した事業基盤で収益を得るという方法もあります。自社の製品を供給するための物流ネットワークを外部に供与することで収益を得るというのはその一例です。物流を共同化することでのスケールメリットに加えて、業界の常識にとらわれないビジネスモデルを創造できれば、既存の物流会社にはない価値を発揮できるでしょう。
モノやサービス、事業基盤を活用したビジネスは、当初は「副業的存在」かもしれませんが、既存のリソースを有効に活用することで従来のコア事業をしのぐ可能性もあります。「収益機会の拡張」は、モノやサービスを提供することで収益を得てきた企業のビジネスモデルを進化させる取り組みといっても相違ないはずです。
前回解説したように、DXは単なるデジタル化ではありません。「デジタル技術を活用したビジネスモデルの革新」です。
本連載を読まれた皆さまは、そのことを十分に理解されたと思いますが、一方で、具体的にどうすればよいのか、どのような方向性が考えられるのか、どうなればビジネスモデルの革新といえるのかが分からないという人もいるかもしれません。そのような方は、ぜひ、この4つの切り口を起点に検討してみてください。「モノを取引する場を創造できないか」「今ある非効率を解消できないか」「売り方や買い方を変えることで需給を拡大できないか」「モノから得られるデータを収益化できないか」といった視点を持つことで、ビジネスモデルの進化に向けた糸口が見つかるはずです。
では、「デジタル技術を活用したビジネスモデルの革新」の方向性を描けたとして、どのようなビジネスモデルであればDX時代を勝ち抜けるのでしょうか。次回は、DX時代ならではのビジネスモデルに求められる基本要件を解説します。
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小野塚 征志(おのづか まさし) 株式会社ローランド・ベルガー パートナー
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、富士総合研究所、みずほ情報総研を経て現職。長期ビジョンや経営計画の作成、新規事業の開発、成長戦略やアライアンス戦略の策定、構造改革の推進などを通じてビジネスモデルの革新を支援。近著に、『DXビジネスモデル 80事例に学ぶ利益を生み出す攻めの戦略』(インプレス)、『サプライウェブ−次世代の商流・物流プラットフォーム』(日経BP)、『ロジスティクス4.0−物流の創造的革新』(日本経済新聞出版社)など。
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