誰も分からない未来は「想像」ではなく「創造」せよ、世界観を示すことの重要性サプライチェーンの新潮流「Logistics 4.0」と新たな事業機会(12)(1/3 ページ)

物流の第4次産業革命ともいえる「Logistics 4.0」の動向解説に加え、製造業などで生み出される新たな事業機会について紹介する本連載。最終回となる第12回は、サプライウェブ時代という「誰も分からない未来」に「歩」を進めるに当たっての「世界観を示すことの重要性」について解説する。

» 2020年08月31日 10時00分 公開

 前回は、サプライウェブ時代を見据えた戦略的投資を検討するに当たっての有望なターゲット領域と、その選定に際しての視点を紹介しました。今回は、本連載の最終回ということで、「誰も分からない未来」に「歩」を進めるに当たっての「世界観を示すことの重要性」を解説します。

⇒連載『サプライチェーンの新潮流「Logistics 4.0」と新たな事業機会』バックナンバー

サプライウェブの描く未来と4つのプレイヤー

 本連載では、サプライチェーンの新潮流をテーマに、さまざまな先進事例を取り上げてきました。その多くは、「誰も分からない未来」に挑戦する取り組みだったと思います。

 将来の成長に向けた戦略的な投資を実行するに当たっての一番の難題は、まさに「未来は誰にも分からない」ということです。事業環境やユーザーニーズの変化、先端技術の開発と実用化、取引先や競合の動向をつぶさに観察し、機を見るに敏な対応を実行できたとして、厳密には「後追い」に過ぎません。一方で、投資対効果を厳正に見極めようとするなら、相応の実績を踏まえた判断が必要となります。新たな価値を生み出そうとするのなら、未来を「想像」し、少しでも成功確率の高い方向に、他社に先立って「歩」を進める以外に手はないわけです。

 では、「サプライウェブの描く未来」とは、どのような世界なのでしょうか。それは、ユーザー、クリエイター、アセットオーナー/オペレーター、オーケストレーターの4つのプレイヤーによって構成されます。

サプライウェブの描く未来 サプライウェブの描く未来(クリックで拡大)

 第1のユーザーは、モノやサービスを「使う人」です。サプライウェブの実現によって、必要なモノやサービスが、必要なときに、必要な場所に、必要な量だけ手に入るようになります。ドローン配送、CtoCtoB物流、CtoCシェアリングなど、それを実現するためのビジネスが広く普及するはずです。

 第2のクリエイターは、モノやサービスを「創る人」です。製造業やサービス業における企画・開発機能が該当します。「所有と経営の分離」が株式会社という事業形態を生み出し、産業革命以降の工業化を加速させたように、サプライウェブは企画・開発といった「バーチャルな機能(サイバー空間)」と、製造・輸送といった「リアルな機能(フィジカル空間)」を分化させます。クリエイターは、サプライウェブのネットワークを活用することで「ユーザーが必要とするモノやサービス」を創り出すことに特化した存在となります。本連載の第3回で紹介したデマンドマネジメントは、その「ユーザーが必要とするモノやサービス」を見いだすためのツールとなるはずです。

 第3のアセットオーナー/オペレーターは、クリエイターに代わって実際にモノを製造したり、保管・輸送したりする役割を担います。ユーザーから見ても自分が必要とするモノを製造したり、保管・輸送したりしてくれる存在となります。クリエイターとユーザーをつなぐ、サプライウェブの「リアルな機能」を支える基盤となるわけです。工場や倉庫、トラックといったアセットを提供するアセットオーナー、それらのアセットを動かすオペレーターの2種類に分けられますが、特に工場のように標準化・規格化が困難なプロセスに関しては、アセットオーナーとオペレーターが不可分となります。本連載の第6回(トラック)第7回(ロボット)第8回(ソフトウェア)第9回(物流施設)で取り上げたプラットフォームビジネスの大部分は、このアセットオーナー/オペレーターに該当します。

 最後のオーケストレーターは、ユーザー、クリエイター、アセットオーナー/オペレーターの存在を最適化する機能を担います。ユーザーが必要とするモノ、クリエイターが創造するモノを把握し、アセットオーナー/オペレーターにつなぐことで、サプライウェブの「全体最適」を実現するわけです。誰よりも多くのデータを得られることがビジネスの肝になります。サプライウェブの世界における「プラットフォーマーの中のプラットフォーマー」といえる存在です。第10回で取り上げたアマゾン(Amazon.com)は、このオーケストレーターになろうとしているのです。

 これは「サプライウェブの描く未来」の全体像です。他社に先んじて戦略的な投資を実行し、次世代のプラットフォーマーになることを目指すのであれば、自社の考える未来を「想像」し、その中での自社の目指す姿を描くことが枢要といえるでしょう。

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