誰も分からない未来は「想像」ではなく「創造」せよ、世界観を示すことの重要性サプライチェーンの新潮流「Logistics 4.0」と新たな事業機会(12)(3/3 ページ)

» 2020年08月31日 10時00分 公開
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「創造」の先にある「一歩」を踏み出すこと

 さて、冒頭にも書いた通り、本連載は本稿をもって最終回となります。本連載を締めくくるにあたって最後に申し上げたいことは、ロジスティクスは未来の成否を左右する重要な基盤だということです。

 毎年8月になると、太平洋戦争での苦難の日々を特集する記事、番組を目にします。ガダルカナル、インパール、沖縄といった数多くの戦死者、犠牲者を出した戦いが紹介されます。その多くは、戦争の悲惨さと、平和の大事さを再確認することに焦点が当てられているわけですが、なぜ負けたのか、なぜ多大な戦死者、犠牲者を出したのかということを考えると、ロジスティクスの脆弱性に行き着きます。日本は「負けるべくして負けた」のかもしれませんが、個別の戦いを見るに、ロジスティクスへの意識の低さは致命的でした。

 太平洋戦争が終わって75年、日本はその反省を糧に、平和主義、民主主義を定着させることに成功しました。誤解を恐れずにいえば、太平洋戦争に負けたからこその平和憲法であったともいえるでしょう。では、その敗戦の一因を担ったロジスティクスの脆弱性をきちんと反省できたのでしょうか。日本企業の現状を見るに、残念ながらそうは思えません。

 本連載の第2回第4回で記したように、企業の収益力を最大化するためには「全体最適」の実現が不可欠です。「調達、生産、物流、販売といった供給のプロセスだけではなく、企画・設計、研究開発、マーケティング、アフターサービスといった機能も含めた全体最適の実現」が大事なわけです。そのためには、調達、生産、販売などと同等の権限を有した人が物流部門のトップにいる必要があります。調達・生産に関わる材料費、労務費、減価償却費だけではなく、物流や販売に要する費用も含めたコストの全体像を見える化し、事業別、製品別、拠点別、顧客別に棚卸することが求められます。「全体最適」を実現するために、工場の生産性が悪化したり、販売効率が低下したりする施策をあえて実行すべきかもしれません。本連載をご覧の皆さまの会社は、そのようなことを検討できる体制になっていますか。そのような意思決定を実行できていますか。

 太平洋戦争を紹介する記事、番組が平和に対して襟を正す機会であるのと同様、本連載が読者の皆さまの視野を広げるだけではなく、次なる行動に結びついたとすれば幸いです。その結果として、読者の皆さまが所属されている会社のロジスティクスが強化され、サプライウェブへの進化をいち早く実現することで、日本の国際競争力が高まることを祈念します。未来を「創造」し、その実現に向けた「一歩」を誰よりも早く踏み出してください。スタートラインに立つためには、「創造」の先にあるその「一歩」が必要なのです。

 本稿のタイトルには第12回とありますが、途中の「特別編」の前後編も含めて計14回の記事をご覧頂いた読者の皆さま、最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。この場を借りて心より御礼申し上げます。本連載の内容に関して、ご意見・ご質問などがございましたら、ぜひ、お気軽にご連絡ください。願わくは、皆さまとまたお会いできる機会があることを楽しみにしております。

(連載完)

筆者プロフィール

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小野塚 征志(おのづか まさし) 株式会社ローランド・ベルガー パートナー

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、富士総合研究所、みずほ情報総研を経て現職。ロジスティクス/サプライチェーン分野を中心に、長期ビジョン、経営計画、成長戦略、新規事業開発、M&A戦略、事業再構築、構造改革等を始めとする多様なコンサルティングサービスを展開。2019年3月、日本経済新聞出版社より『ロジスティクス4.0−物流の創造的革新』を上梓。

株式会社ローランド・ベルガー
https://www.rolandberger.com/ja/Locations/Japan.html

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