一方のAMIBAは、ARDISに蓄積された実験データの迅速な活用を目的に開発されたMI分析ツールである。MI分析については、機械学習モデルの構築だけを考慮すれば市販ツールの利用も可能だったが、先述の開発サイクルにおける実験条件の検討で採用したいと考えていた、少ない入力データにも対応するベイズ最適化の機能もワンストップで提供したと考え、内製による独自開発を決めた。
ARDISから出力したデータをAMIBAにアップロードすることで機械学習が容易に実行でき、重要な因子の分析やデータの特徴を可視化する機能を備えている。また、ベイズ最適化を用いた実験計画では、研究者が検討した複数の実験条件から有効な結果を得られそうな優先順位を提示してくれる。
なお、ARDISとAMIBAはパブリッククラウドを用いたWebアプリケーションだが、一部の分析機能などでAGCが自社で持つ計算機も利用している。今後は、研究開発に用いる装置や設備のデータを自動でクラウド上に取り込む機能や、WordやExcelで作成された既存の実験データの取り込みをサポートするツールなどの開発を進める予定だ。
ARDISとAMIBAを用いたMIによる開発成果も既に幾つか出ており、会見では自動車用ガラスコーティング剤、燃料電池用電解質ポリマー、ガラス製品の組成開発という3つの事例を紹介した。
自動車用ガラスコーティング剤は、一般的に10成分以上を用いる複数の材料の配合比とプロセス時間/温度によって、膜特性、光学特性、耐久性などの要求特性が決まる。この混合液の配合比について、AMIBAのベイズ最適化が示した従来の研究データや工場のデータと異なる領域を実験したところ、特性が約10%向上し、これまで不十分だった耐久性をクリアすることができた。
燃料電池用電解質ポリマーでは、酸素透過性、耐久性、電極活性などの性能が求められる。ARDISに蓄積されたデータを用いて、ポリマーを構成するモノマーの構造を特徴量として記述してからAMIBAで機械学習モデルを構築。ある炭素数の範囲内で可能性のある構造を持つモノマーの候補化合物を自動生成したところ、研究者が想定していたかった化合物が提案された。現在は、実際にこの化合物を合成し評価を進めている段階だ。
ガラス製品の組成開発では、ARDISに基づく社内データと論文などの公知データを統合したガラスデータベースにAMIBAを適用することで既にさまざまな成果を得ており、AMIBAで開発したモデルも研究者間で共有されている。中でもスマートフォン向けカバーガラスでは、ベイズ最適化により従来比で落下強度が25%向上した組成の早期開発につなげている。従来の手法では開発に約1年かかっていたが、今回は8分の1の1.5カ月で開発を完了したという。
なお、2020年からの技術本部でのMIツール導入は、スマートR&Dチーム内のMIコンサルタントや先端技術基盤研究所のソフトサイエンスチームが、各研究チームのメンバーが納得するまで数カ月をかけて話し合いを重ねながら進めてきた。浦田氏は「当初はリーダー層の理解を得られず苦労することもあったが、何とかここまで導入を進めてきた。今後は、事業部の開発部門にも展開していくが、それぞれのDX(デジタルトランスフォーメーション)部署と連携することになるだろう」と述べている。
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