帝人が、新素材の研究開発におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進に向けて、日立製作所との協創を始める。帝人と日立は今回の協創をどのように進めていこうとしているのか。両社の担当者に聞いた。
国内繊維大手で、素材や化学品、医薬品なども手掛ける帝人が、新素材の研究開発におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進に向けて、日立製作所(以下、日立)との協創を始める。帝人はこれまでも、蓄積したシミュレーションデータや実験データの分析などによって新素材開発を促進する「マテリアルズインフォマティクス(MI)」の取り組みを進めてきたが、日立の「Lumada」に代表される先進デジタル技術の活用によってさらに加速させる方針だ。併せて、研究開発に関わるさまざまなデータを蓄積、収集する統合データベースも構築していく。
帝人と日立は今回の協創をどのように進めていこうとしているだろうのか。帝人 マテリアル技術本部 マテリアル技術本部長補佐 マテリアル技術企画部 部長の上野山雅樹氏と、日立製作所 公共システム事業部 デジタルソリューション推進部 部長(チーフプロジェクトマネージャー)の森田秀和氏に話を聞いた。
帝人は、2020年2月に発表した「中期経営計画2020-2022」の期間を、持続的成長に向けた成長基盤の確立期としている。重点施策としては、ITやデジタル技術を活用したイノベーション創出を挙げており、「オフィス」「販売・製造」「研究開発」の3分野で業務改革を推進する方針だ。帝人の上野山氏は「中でも、新しいものを生み出す研究開発の生産性を高めていくには、ITやデジタル技術の活用によるDXが重要な役割を果たすと考えている」と語る。
現在、国内外の化学系企業の研究開発部門におけるDXの代表的な存在になっているのがMIだ。これらの企業にとって新材料の開発は競争力の源泉だが、これまでは研究開発者の知見やノウハウから生まれた発想を起点に、実験を重ねることでその発想の新規性を裏付け、製品として実現していくような手法で開発されることが多かった。
MIは、ある意味で研究開発者のカンコツに頼っていた新材料の開発について、IT分野で進歩が著しい機械学習やAI(人工知能)の技術を導入することで、実験結果の予測や実験方針の策定に役立て、効率化を実現していくための手法である。しかし、MIを進める上で課題になるのが“データ”だ。先述した、研究開発者の“知見やノウハウ”だけでなく、実験結果などについても、MIに取り込めるような形でデータ化されていないことが多い。
上野山氏は「今回の日立との協創は、研究開発者の間にあふれる研究・技術情報の可視化と情報共有の促進による『情報武装化』が第1の狙いになっている。情報武装化を進めることでさまざまな情報をデータ化できれば、その豊富なデータを用いたMIなどによって、第2の狙いである『業務プロセスの変革』を進められるだろう」と説明する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.