AGCは2022年6月から本格運用を開始した独自開発マテリアルズインフォマティクス(MI)ツールについて説明。「ARDIS」と「AMIBA」の2つで、2025年をめどに技術本部R&D部門へのシステム導入と、これらMIツールを活用できるMI人材の育成を完了させる計画である。
AGCは2022年6月20日、オンラインで会見を開き、同月から本格運用を開始した独自開発マテリアルズインフォマティクス(MI)ツールについて説明した。MIのデータベースであるとともに研究者の電子実験ノート機能を備える「ARDIS(AGC R&D Data Input & Storage)」と、ARDISのデータを基に機械学習とベイズ最適化を活用してMIの分析を行える「AMIBA(AGC Materials Informatics Basis Analysis Tool)」の2つで、2025年をめどに技術本部R&D部門へのシステム導入と、これらMIツールを活用できるMI人材の育成を完了させる計画である。
ARDISとAMIBAの開発を担当したのは、技術本部傘下のスマートR&Dチームである。同チームは、R&Dのスマート化に向けてMIの実装と活用を主な活動としており、2020年から同じく技術部門傘下にある材料融合研究所と先端基盤研究所に、ARDISとAMIBAの試験導入を開始した。AGC 技術本部 企画部 戦略企画グループ スマートR&Dチームリーダー・シニアマネジャーの浦田新吾氏は「両研究所には約600〜700人の研究者が所属しており、そのうち約70%がツールの利用を始めたことから、今回の本格運用を開始したという発表になった」と説明する。
素材の研究開発は、市場などからのニーズを基に、実験条件の検討と記録、実験、データ保管、考察というサイクルを繰り返すことで、求める性能や収率などの実現を目指すのが一般的だ。この開発サイクルに、計算科学や情報科学を用いて、素材開発の大幅な効率化を目指すのがMIである。ARDISは実験条件の記録とデータ保管、AMIBAは実験条件の検討と考察に組み込まれるので、自然とMIのデータがたまりながら効率的な開発が可能になるというコンセプトになっている。
MIを実践するためには、実験データの保管形式を統一することが求められる。これまでAGCでは、WordやExcelなどのOfficeソフトウェアを用いて各研究者が独自の手法で記録しており、データの形式、手法とも標準化されていなかった。市販のMIツールを用いて実験データの保管形式を統一することも検討されたが、AGCは、無機材料であるガラスだけでなく、有機化学やバイオなど幅広い分野にわたって素材の開発を行っており、これらを一元的にカバーできるツールは市場になかった。また、市販のMIツールでは、研究者が日々利用し、実験データの入力に用いることになる電子実験ノート機能が充実していないことも課題だった。
そこで、スマートR&Dチームが内製で開発したのがARDISである。ARDISは、AGCの幅広い研究開発分野を一元的にカバーするデータベースであるとともに、実験設計、作業指示、データ入力、考察メモなどを記入でき、詳細検索やレポート出力なども可能な電子実験ノート機能を併せ持つシステムとして開発された。
クラウドベースのWebアプリケーションであるARDISは、AGC社内における実験業務フローを意識しており、日々の実験内容を電子実験ノートに記録することで自然とMIに使えるデータがたまる仕組みになっている。MIのためのデータとして求められるサンプルの組成や作成条件、物性値などの数値データを表形式UIで記録できる他、画像などのファイルデータも1カ所に集約保管でき、各研究者が実験ノートの機能として重視する定性的な実験の知見を記録できる自由記述ノートも用意している。
ARDISを導入することで、統一されたルールで実験データの記録や、データ解析しやすい形式でのデータ蓄積が可能になる。MIに活用できるデータの一元管理に加えて、研究チーム内の用語や業務ルールの統一、入力フォーマットの統一といった研究開発業務の標準化にもつなげられることもメリットだ。技術本部内でデータを共有し、他研究チームの知見やノウハウの有効活用も容易になる。
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