豊田氏は、モビリティへの変革を進める自動車産業は「成長産業」であると述べた。コロナ禍でも、2020〜2021年度の2カ年で12兆円の設備投資や研究開発費の投入を実施したことを例に挙げた。また、海外事業で獲得した外貨は、2020〜2021年で合計25兆円に上るという。さらに、2019年末から2021年末で27万人の雇用増加に貢献したとしている。「難しい局面の今こそ、みんなで前に進むことが重要だ」(豊田氏)。
足元では、円安や資材コストの高騰が進行している。自工会 専務理事の永塚誠一氏は「円安は輸出産業には有利と思われているかもしれないが、それほど単純な構造ではない。通常時であれば収益増加に働くが、今回の円安は、コロナ禍で部品の調達に支障が出て輸出が伸ばせていないところに、資材の価格高騰が重なっている。また、“ドル一強”の状況や金利の引き上げによって、資金調達やローン、リースにもマイナスな影響が大きい可能性がある。為替は市場が決めることだが、安定した推移が望ましい。自動車産業はみんなでやっていく産業なので、還元や分配によって共に成長することが必要だ。為替差益を上回るサプライチェーン全体のさらなる強靭化を視野に乗り切っていきたい」と述べた。
ウクライナ侵攻が続く中で、ロシア事業を撤退する海外企業が増え始めた。これについて豊田氏は「ロシアに進出している企業は変化点を迎えている。各社の判断はさまざまだが、自動車産業は、保有ユーザーも含めるとステークホルダーがとても多い。自動車メーカーの決断や判断が、ステークホルダーから理解と共感を得ることを軸に、状況を注視して対応を続けていくしかない」とコメントした。
電力供給を含むエネルギー問題にも自動車産業は直面している。豊田氏は「カーボンニュートラルは、エネルギーをつくるところから使うところまで全員参加で進める必要がある。その中で、電気を使う人と暮らしの安全への目線を忘れずに検討しなければならない。原子力発電によって、戻れない場所が生まれたという経験が日本にはある。安全第一か、ライフラインとしてアフォーダブルであるかを忘れずにエネルギー問題に取り組む必要がある。エネルギーを使うところでの選択肢を狭める規制の議論も懸念している。カーボンニュートラルはエネルギーを『作る』『運ぶ』も含めて達成が必要だと理解してほしい。使う側が規制されると、日本から輸出できなくなり、雇用や産業の競争力が自分たちの努力以外のところで低下しかねない」と危機感を示した。
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