プロジェクター市場半減の衝撃、カシオの生きる道は“組み込み”へ組み込み開発 インタビュー(3/3 ページ)

» 2022年04月20日 11時00分 公開
[朴尚洙MONOist]
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スマートファクトリーにおける作業ガイドの引き合いが強い

 カシオが組み込みプロジェクションモジュールの対象市場と想定しているのがプロジェクションARだ。AR(拡張現実)というと、スマートフォンゲームのようにモバイル端末のカメラを通して現実世界とCGを重ね合わせたり、マイクロソフトの「HoloLens」のようなヘッドマウンディスプレイにグラフィックスを投影したりするイメージが強い。一方、カシオが唱えるプロジェクションARは、物体にプロジェクターから出力された映像を重ね合わせることで、現実世界にあるものとデジタル情報が融合した表示を行うARの表現手法を指す。

プロジェクションARとは プロジェクションARとは[クリックで拡大] 出所:カシオ計算機

 このプロジェクションARのターゲットとして期待しているのが「スマートホーム」「スマートビルディング」「スマートファクトリー」の3つの市場である。スマートホームは、コロナ禍による衛生ニーズの高まりやリモートワークの定着、快適・便利の進化、スマートビルディングは、高齢化社会への対応やバリアフリー、ソーシャルディスタンス、スマートファクトリーは労働力不足や品質向上、有人作業環境の改善などが成長ドライバーとなり、それぞれ市場規模は2019年から2024年にかけて40〜70%成長するという調査結果もある。

スマートホームスマートビルディングスマートファクトリー プロジェクションARのターゲット市場である「スマートホーム」(左)、「スマートビルディング」(中央)、「スマートファクトリー」(右)のイメージ[クリックで拡大] 出所:カシオ計算機

 直近でプロジェクションARのニーズが最も強いのがスマートファクトリーだ。カシオは2022年1月開催の「第36回 インターネプコン ジャパン」に出展し、製造現場×プロジェクションARをテーマにした展示を行い、来場客からの注目を集めた。

カシオの「第36回 インターネプコン ジャパン」における展示 カシオの「第36回 インターネプコン ジャパン」における展示[クリックで拡大] 出所:カシオ計算機

 中でも最も反応が大きかったのが、OKIとコラボレーションした「工場内作業ガイド」だ。熟練者の高齢化や引退などにより工場での技術承継が課題になる中、組み立てラインでの作業内容を指示する作業ガイドは経験の浅い作業者を支援する有効なソリューションになるとみられている。ただし、現行の作業ガイドの多くはタブレット端末をはじめとするディスプレイに表示されているため、間接的な指示にならざるを得ない。これを、実際に作業を行う部品や材料に対してARを使って直接指示できれば、ディスプレイに視線を移さずに済むなどさらなる効率化が可能だ。「当社の組み込みプロジェクションモジュールは組み立てブースのポールに引っ掛けて使えるので、既存のインフラに簡単に組み込める。セミセルでの活用はOKIも有力視している」(古川氏)。また、0℃でも動作する性能から、食品倉庫での仕分け作業での活用も期待できるという。

 この他、東京エレクトロン デバイスの3Dロボットビジョンシステム「TriMath」のバラ積みピッキングにおいて、ピッキング対象物の形状認識を行う格子パターンを投影する用途や、床面への投影による作業現場のフロアガイドなどの事例も披露した。TriMathは2022年1月から販売されており、床面投影は製造現場におけるレイアウト変更などの用途でも引き合いがある。

 今後の事業展開では、スマートファクトリー向けであれば工場などFA系のSIerや代理店などとの連携を深めていく考え。パートナー企業との連携が事業拡大に向けて必須になるとみている。カシオは、組み込みプロジェクションモジュール事業に先駆けて半導体光源技術自体の外販を2016年から行っており、そこで培った装置や設備、機器への組み込みに関するノウハウも適用できるとしている。

 組み込みプロジェクションモジュール事業の売上高目標は、2025年に100億円規模を掲げる。古川氏は「2025年時点では、スマートファクトリーが約6割、スマートビルディングが約3割、残りがスマートホームを想定している。スマートホームは浸透に時間がかかるが、あるタイミングで大きく化けるのではないか」と述べている。

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