コロナ禍もあってプロジェクター市場が急減している中、カシオ計算機は独自のプロジェクター技術を生かすべく、「プロジェクションAR」向けに用いられる組み込みプロジェクションモジュールを新規事業として立ち上げた。現在、最も強い引き合いがあるのが、スマートファクトリー向けの作業ガイドだという。
技術の進歩や業界構造の大きな変化によって市場規模が急減し、その市場で一定の存在感を持っていた企業が撤退を余儀なくされた製品は数多くある。特に、デジタルカメラやカーナビゲーションシステムなどは、2010年代に入ってから複数の国内メーカーに大きな影響をもたらしたこともあって印象深いのではないだろうか。
そして今、コロナ禍の影響もあって市場規模が急減しているのが国内に有力メーカーがひしめくプロジェクターである。プロジェクター市場の9割を占めるといわれるビジネスプロジェクターの世界市場は、2016年にピークを迎えた後、2018年までは緩やかに減少していたが、2019年に低価格化した大型ディスプレイとの競合によって2018年比2割減と落ち込んだ。そしてコロナ禍が直撃した2020年は、オフィスや教育向けなどの予算凍結もあって2018年比で半減した。コロナ禍からのリバウンド需要が期待された2021年も、2020年と同程度の市場規模にとどまっており、今後の市場回復は見通せない状況だ。
この厳しい状況にあるプロジェクターの事業展開を大きく変革しようとしているのがカシオ計算機(以下、カシオ)である。これまでビジネスプロジェクターで培ってきた小型軽量の光源技術を独自性として、工場の生産ラインにおける作業ガイドやビルの案内表示といった「プロジェクションAR」向けに用いられる組み込みプロジェクションモジュールとして展開する新規事業を2020年末に立ち上げたのである。
もともとカシオは、企業の小会議室や教室などで用いられる60〜90インチサイズのスクリーンへの投影に対応する、輝度2000〜4000lm(ルーメン)のビジネスプロジェクターを中核に事業を展開しており、シェアランキングでは中位に位置している。しかし、市場規模が急減する中で最も影響を受けるのはこのシェア中位規模のメーカーに他ならない。
市場の急減によってコンパクトデジタルカメラ事業からの撤退を経験しているカシオにとって、同様に成熟期を迎えつつあったプロジェクター市場の事業展開をどのように変革していくかは大きな課題になっていた。同社 開発本部 イメージング統轄部長 兼 イメージング企画部長 兼 プロジェクション企画開発部長の古川亮一氏は「2018年ごろから、カシオのプロジェクター技術の独自性を生かした新たな事業展開の検討を始めた。2019年に組み込みプロジェクションモジュール事業の具体化に入り、2020年末に新規事業としてスタートを切った」と語る。
カシオは2021〜2023年度の中期経営計画において、新時代のニーズに適応した“オンリーワンビジネス”を目指す新規事業を5分野で展開する方針を示している。その一つが「プロジェクション」であり、組み込みプロジェクションモジュールは同分野の大きな柱として期待されているのだ。
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