カーボンニュートラルへの挑戦

カーボンニュートラルは製造業のOSに、IVIが考える具体的手法と実現のカギIVI公開シンポジウム2022春(1)(1/2 ページ)

IVIは2022年3月10〜11日、リアルとオンラインのハイブリッドで「IVI公開シンポジウム2022-Spring-」を開催した。今回はその中から、IVI 理事長の西岡靖之氏による講演「カーボンニュートラルは製造業のOSになる〜新たなゲームチェンジは何を意味するのか?」の内容を紹介する。

» 2022年04月12日 13時45分 公開
[三島一孝MONOist]

 「つながる工場」実現に向け、製造業、製造機械メーカー、ITベンダーなどが参加するIndustrial Value Chain Initiative(IVI)は2022年3月10〜11日、「IVI公開シンポジウム2022-Spring-」をリアルとオンラインのハイブリッド形式で開催した。今回はその中から、IVI 理事長の西岡靖之氏による講演「カーボンニュートラルは製造業のOSになる〜新たなゲームチェンジは何を意味するのか?」の内容を紹介する。

製造業にとってひとごとではないカーボンニュートラル化

 IVIは、IoT時代におけるモノづくりとITの融合によって可能となる新たなモノづくりの姿を“緩やかな標準”というコンセプトをもとに実現することを目的とした団体である。日本機械学会 生産システム部門の「つながる工場」分科会が母体とし、2015年6月に設立された。「ボトムアップアプローチ」や「緩やかな標準」「協調と標準のルール作り」などを目指し、製造現場の課題解決をベースにデジタル技術の現実的な活用の仕組み構築などに取り組んでいる。これらの活動の成果を毎年春と秋の2回、シンポジウムとして公開している。

photo IVI 理事長の西岡靖之氏

 その中でテーマとして取り上げたのが、グローバルで大きなテーマとなっているカーボンニュートラル化である。西岡氏は「今回の講演テーマとして『カーボンニュートラルは製造業のOSになるのか』というように疑問形にすることも考えたが、あえて断定した。OSはコンピュータの基盤となるもので、なければ動かすことはできない。製造業にとってもカーボンニュートラル化への取り組みはそういう基盤になると考えている。前提となるルールが変わる」と危機感について述べた。

 地球温暖化の動きは統計からも明らかで、温室効果ガスの排出を進めなければ、気温は上がり続けることになる。そのため、多くの政府や企業が温室効果ガス排出の抑制に取り組んでおり、日本政府でも2050年に国としてのカーボンニュートラル化を目指すと宣言している。また、それに伴い2030年度までに2013年度比で温室効果ガス排出量の46%を削減するとしている。ただ、こうした状況があっても多くの製造業にとっては「まだひとごととして捉えている企業が多いのが現実だ。ただ、今後はCO2排出量の証明書などが取引の条件になってくる。実際にそういう動きが出てきている」と西岡氏は語る。

スコープ3は「つながるモノづくり」で削減を

 こうした中で具体的な動きとして出てきたのが、GHG(温室効果ガス)プロトコルの「スコープ3」基準である。燃料の燃焼など直接排出する温室効果ガスを対象とした「スコープ1」や、使用する電力の発電によって排出される温室効果ガスを対象とした「スコープ2」に対し、「スコープ3」は、製品を製造するために、購入した物品やサービスや資材、輸送や流通、廃棄などで発生する温室効果ガスや、製品販売後の輸送や使用、廃棄に関連する温室効果ガスなど、バリューチェーン全体の温室効果ガス排出量全体を対象としていることが特徴だ。

 西岡氏は「基本的にはスコープ1とスコープ2では自社内の活動で完結していたが、スコープ3になると自社だけでは解決できない。また、バリューチェーン全体の排出量が評価されるために、サプライヤーに排出負荷を押し付けることもできない。そういう意味では、IVIが取り組んできたような『つながる工場』『つながるモノづくり』の枠組みで温室効果ガス排出量の削減に取り組んでいくしかない」とスコープ3への取り組みの方向性について語る。

photo 製造業にとってのGHGプロトコルによる温室効果ガス排出の要素[クリックで拡大] 出所:IVI

 こうした中で具体的にはどのように取り組みを進めればよいのだろうか。西岡氏は「IVIが今までに進めてきた『つながるモノづくり』のさまざまな取り組みの中でスコープ3に対応するような取り組みがないかを考えると、現存する技術だけである程度はできることに気付いた。例えば、BOM(Bill Of Materials)やBOP(Bill of Process)で製造工程の4M(Man、Machine、Material、Method)情報を管理しているためにそこで使用されているエネルギーが把握できる。それをサプライチェーンで連携させ、CO2排出量原単位を掛け合わせることで、サプライチェーンの総合的な排出量が算出できる。これらを評価するような第三者機関も出てきている。材料系のプロセス製造業では以前からこうした仕組みはあったが、それがあらゆる製造業に広がる可能性がある」と語る。

photo 製造業にとってスコープ3を評価する仕組み[クリックで拡大] 出所:IVI
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