ここまで、3つのエピソードをお伝えしたが、2つ目と3つ目の内容は、比較的ロジカルに仕事をしているエンジニアの話であった。そんなエンジニアでも、とても曖昧な仕事の仕方をしているのが実情だ。
トラブルや不良品を発生させる日本人は、異口同音に「普通は〜のはず」と言うが、この「普通」が通用する日本人の人口は、世界のたった1.6%だけであることは知っておくべきだ。
ちなみに、中国の人口は世界の18%である。「あうんの呼吸」に頼り、曖昧な表現でやりとりする日本人は、世界の中ではごく少数であり、特殊であることをよく理解してほしい。
現在、日本人同士や日本国内での仕事においても、「あうんの呼吸」に頼った仕事の仕方では、情報伝達が難しくなってきたといわれている。
約20年前は、ほとんどの仕事仲間の情報の仕入れ先は同じであった。それはテレビや新聞、雑誌である。しかし、近年のインターネットとスマートフォンの普及で、情報の入手先が人によって大きく違ってきた。年配者は相変わらずテレビや新聞が多いかもしれないが、若者の多くは膨大な情報が存在するWebを活用している。入手する情報源が違えば、考え方が異なってくるのも当然だ。
さらに、同じWebの情報でも、英語の情報とその中で日本語に翻訳されている情報とでは、その情報量に大きな違いがあるといわれている。また、職場に増えてきた外国人は、もちろん日本人とは違う国民性を持っている。つまり、同じ日本国内の仕事仲間でも、年齢差や英語ができるか否か、または国籍によって、情報源と国民性の違う人たちが、私たちの周りに当たり前のように存在しているのである。
加えて、現在のコロナ禍では、以前のように職場でリアルに対面して、一緒に仕事をする機会は減りつつあり、PCのディスプレイに映し出される数cm大の顔とスピーカー音声だけのWeb会議によるコミュニケーションを余儀なくされている。そのため、さらにお互いの意思疎通が難しくなってきている状況だ。
「メラビアンの法則」によると、リアルのコニュニケーションによる情報の93%は、相手の表情やジャスチャー、そして声のトーンや話し方による“非言語コニュニケーション”から得られるといわれている。よって、これらの情報源や国民性の違い、さらにメラビアンの法則が影響したWeb会議により、同じ情報と国民性を持つことを前提とする「あうんの呼吸」に頼った日本人特有の仕事の仕方が、ますます通用しにくい時代になっているといえるだろう。 (次回へ続く)
オリジナル製品化/中国モノづくり支援
ロジカル・エンジニアリング 代表
小田淳(おだ あつし)
上智大学 機械工学科卒業。ソニーに29年間在籍し、モニターやプロジェクターの製品化設計を行う。最後は中国に駐在し、現地で部品と製品の製造を行う。「材料費が高くて売っても損する」「ユーザーに届いた製品が壊れていた」などのように、試作品はできたが販売できる製品ができないベンチャー企業が多くある。また、製品化はできたが、社内に設計・品質システムがなく、効率よく製品化できない企業もある。一方で、モノづくりの一流企業であっても、中国などの海外ではトラブルや不良品を多く発生させている現状がある。その原因は、中国人の国民性による仕事の仕方を理解せず、「あうんの呼吸」に頼った日本独特の仕事の仕方をそのまま中国に持ち込んでしまっているからである。日本の貿易輸出の85%を担う日本の製造業が世界のトップランナーであり続けるためには、これらのような現状を改善し世界で一目置かれる優れたエンジニアが必要であると考え、研修やコンサルティング、講演、執筆活動を行う。
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◆著書
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