これまで“燃えない電池”を展開してきたエリーパワーだが、課題がないわけではない。現行の大型リチウムイオン電池は、可燃性の有機電解液を使用しているため、発火リスクをゼロにはできていない。
例えば、他社のリン酸鉄を用いるリチウムイオン電池では、くぎ刺しを行うと電池内部の温度が一定程度上昇し、有機電解液が蒸発する形でガスを噴出し発煙が起こるという課題がある。一方、エリーパワーの大型リチウムイオン電池は、内部構造の工夫などによってこのような発煙も起こらないようになっている。ここまで安全性を追求しても、可燃性の有機電解液を使用している事実は変わらないため、消防法の規制対象になるという意味では同様の扱いになってしまうのだ。
実際に、大容量の蓄電システムとして複数のシステムをつなげて運用する際に、容積で200l(リットル)、電池セル数で743個を超える場合には、地方自治体への届け出が必要になる。さらに、容積で1000l、電池セル数で3787個以上の規模では、消防法の対象となり危険物倉庫に保管しなければならなくなる。
現在開発中の不燃新型電池は、不燃性の電解液を用いているため、この消防法関連の制約を取り払うことができる。「原理的に安全性を大幅に高められるだけでなく、保管量の制限がなくなることで倉庫や輸送に掛かる費用を低減できる」(河上氏)という。
エリーパワーにとって不燃新型電池が有利な点は他にもある。電池を生産する際に電解液を入れ替えるだけで済むので、主力工場の川崎事業所に導入している自動化ラインを活用できるのだ。河上氏は「例えば、話題の全固体電池の場合、液系のリチウムイオン電池と構造が全く異なるため生産ラインも新たに構築する必要がある。当社の不燃新型電池は、既存の生産ラインを活用できる点が大きなメリットになる」と説明する。
さらに、リン酸鉄を採用するリチウムイオン電池の課題だったエネルギー密度を大幅に向上することも可能になる。「有機電解液という可燃物を燃やさないために採用したのが正極材のリン酸鉄だ。しかし、コバルトやマンガン、ニッケル系の正極材と比べると、どうしてもエネルギー密度が低くなる。しかし、電解液が不燃となれば、新たな正極材料を検討し、エネルギー密度の向上を図れるようになる」(河上氏)という。
2018年11月の発表では、1Cレートでの充放電が可能で、23℃環境下でフル充放電を繰り返す寿命試験で1000サイクル後に90%以上の容量保持率を達成したなどの成果を明らかにしていた。今回の会見では、ラボレベルの成果として、エリーパワーが重視する“燃えない電池”としての特性を維持しつつ、重量エネルギー密度で280Wh/kg、体積エネルギー密度で700Wh/lなど、現行の一般的なリチウムイオン電池を上回る性能が得られていることを発表した。
現在は、協力する化学メーカーと不燃電解液の量産に向けた取り組みを進めており、2025年を目標に不燃新型電池の量産につなげたい考えだ。
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