ドイツでは国を挙げた産学連携の取り組みや、職業訓練を通じた人材育成が活発に実施されています。こうした動向はBASFの働き手にも大きな影響を与えています。例えば、大学や研究機関と化学業界の人材交流です。歴史をひもとけば、染料などの原料になるベンゼンは、産業界で従事した技術者がより基礎的な研究をするために大学に戻ってきたことで発見されました。
学界で知見を深めた人材は再び産業界に戻っていきます。これによって産業界と学会の双方の人材が“進化”を繰り返していき、やがて、ドイツの化学メーカーは合成染料分野で世界をリードするようになったのです。そして2000年前後では、学術分野で議論し尽くされた経営手法としてセンター・オブ・エクセレンスを採用しました。
BASFが展開する脱炭素の専門組織Net Zero Acceleratorは、まさにこのセンター・オブ・エクセレンスの実践例です。日本語では組織横断的専門集団や、CoEなどと呼ばれています。取締役会会長の直下に担当役員に当たるラルス・キッサウ(Lars Kissau)博士が管掌し、事業部門の取り組みの現実性を加味しつつ、各事業部の実行支援、達成状況をKPIで確認して、改善提案などを行います。
産業界で採用が進み学術的に有効性が検証されたこの手法は、現在は日本国内の業務改革プロジェクトでよく採用されています。ただ、事業部間連携を伴う都合上、スムーズな運営にはメーカー側の変革に対する成熟度も求められることになるのです。
このようなモニタリングやガバナンス体制を整えるにあたり、よく課題としてお聞きするのが人材確保です。脱炭素やSDGsに関する経験、その知見を実務に適用する応用力、複数事業部や海外拠点との折衝などが求められます。広範なスキルを持つ人材が求められるため、外部からの採用を選択肢に入れても採用は難しい印象です。BASFの場合はマーケティングからキャリアを始め、ドイツ国内だけでなく中国、東南アジアなどで事業開発の経験を積んだキッサウ博士が抜てきされ、担当者に就任することになりました。
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