国内製造業は本当に脱炭素を実現できるのか――。この問いに対して、本連載では国内製造業がとるべき行動を、海外先進事例をもとに検討していきます。第2回は世界最大の化学素材メーカーであるBASFを題材に、同社がいかにして製品のCO2排出量可視化に取り組んだかを解説します。
本連載第1回では、脱炭素の先行事例として欧州の取り組みを参考にすることが妥当なのかを検証しました。その結果として、「再エネ生産に不向きな自然条件」や「炭素集約型産業への強い依存」といった固有の課題を持つ日本では、欧州と比べて脱炭素の実現が容易でないことを示せたかと思います。その上で、他産業よりもCO2排出量の多い国内製造業は脱炭素において重要な役割を持っており、意欲的な活動が求められていることも再確認しました。
今回は、脱炭素の潮流の中で最も影響を受けている業界の1つである、化学・素材業界を取り上げます。その中で、特に150年の歴史を持つ、世界最大の総合化学メーカーであるドイツのBASFを題材に、同社がどのように脱炭素の流れに向き合っているかを解説します。
まずはBASFが近年行った、脱炭素関連の目標設定や取り組みについて、簡単に列挙してみます。
化学・素材業界は国内の基幹産業として重要な地位を占めていますが、石油など化石燃料を原料とするため、環境負荷の大きさからたびたび産業界への批判の矢面に立たされることが多くありました。こうした業界の事情自体は日本もドイツも変わらないでしょう。
その中で、BASFは生産工程やサプライチェーンの見直しを通じて、1980年から2018年にかけてCO2排出量を半減することに成功しました。そして現在、2030年と2050年を新たなマイルストーンとして定めています。具体的な数値目標を設定するとともに、CO2排出量削減に向けた投資や、専門組織の設立などを行うことで、製品ポートフォリオの見直しや技術提携を強力に進めようとしています。
ポイントとなるのは、2050年までの達成目標である「スコープ1+2の排出量をネットゼロへ」というメッセージです。脱炭素の目標設定において、定量的な目標KGI(重要目標達成指標)やKPI(重要業績評価指標)の設定は必須とされています。これは、投資家などの外部ステークホルダーに目標に向けた削減計画の進展具合などを評価してもらいやすくするためです。
ただ、CO2排出量の削減目標は、売上高や営業利益など他の経営指標と異なる側面もあります。目標の達成可能性が不透明なものになりやすく、目標値の妥当性を客観的に判断することが難しいのです。2030年、2050年という一般的な中期計画よりも長いスパンで定める目標であること、また、社会が求める目標水準が高すぎることなどが影響しています。
企業としては意欲的な目標設定を行う必要がありますが、その際には、自社のパーパスや中長期計画における目標、世間から期待されている脱炭素のレベル感、競合他社の動向などを総合的に勘案しなければなりません。そして一度決めたら終わりというわけでなく、自社を取り巻く環境変化をふまえ、目標値や取組みを適切なタイミングで見直すことも重要です。BASFもこうした観点を織り込んだうえで、スコープ1+2の宣言を行ったのでしょう。
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