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» 2022年03月01日 07時30分 公開

花王の新たな“道しるべ”となるか、PFNと仮想人体生成モデルを共同開発イノベーションのレシピ(1/2 ページ)

花王とPreferred Networks(PFN)は「仮想人体生成モデル」を開発した。健康診断などで得られる身体データから、ライフスタイルや性格傾向、嗜好性、ストレス状態など1600以上の項目を網羅し、ある項目のデータを入力すると別の項目の推定データを出力できる。花王は同モデルをAPI経由で提供する新規デジタル基盤事業の準備を進める方針だ。

[朴尚洙,MONOist]

 花王とPreferred Networks(以下、PFN)は2022年2月28日、オンラインで会見を開き、健康診断などで得られる身体データから、食事、運動、睡眠などのライフスタイルや性格傾向、嗜好性、ストレス状態など1600以上の項目を網羅し、ある項目のデータを入力すると別の項目の推定データを出力できる「仮想人体生成モデル」を開発したと発表した。花王は、PFNの協力を得て、仮想人体生成モデルをAPI経由で提供する新規デジタルプラットフォーム事業の開始に向けた準備を進める方針で、最初の協業パートナーとしてNTTドコモとヘルスケア領域で連携していくことを明らかにした。

 花王 代表取締役 社長執行役員の長谷部佳宏氏は「花王が手掛ける生活用品は、コンパクトな消費でありながらQOL(Quality of Life)を高められることが重要になっている。これを実現していく上で役立つ仮想人体生成モデルは、多種多様な企業との連携が可能であり、当社が構想するデジタル・ライフ・プラットフォームにおいて重要な役割を果たすものだ」と語る。

会見の登壇者 会見の登壇者。左から、花王の長谷部佳宏氏、PFNの岡野原大輔氏、丸山宏氏[クリックで拡大] 出所:花王、PFN

仮想人体生成モデルは人体の“総体としての発現”を表現するために開発

 花王とPFNは、2019年11月から始まった皮脂のRNAから得られたデータを美容カウンセリングや医療診断に生かす「皮脂RNAモニタリング技術」の実用化開発から協業を開始。2021年からは、今回発表の仮想人体生成モデルをはじめとする共同研究範囲を拡大している。

花王とPFNの協業 花王とPFNは2019年11月から協業を開始。2021年から協業範囲を拡大している[クリックで拡大] 出所:PFN

 2020年10月から花王にエグゼクティブ・フェローとして出向している、東京大学 人工物工学研究センター 特任教授でPFN PFNフェローの丸山宏氏は「構成パーツが与えられた機能を果たす自動車などの工学システムと異なり、さまざまな細胞が集まって総体として機能を発現する人体は不思議に満ちている。この“総体としての発現”を表現するために開発したのが仮想人体生成モデルだ。これによって、さまざまな方法で観測できる人体の観測データから、現時点で分からないことや把握できないことを推定できるようになる」と述べる。

 ここで言う「生成モデル」とは、機械学習や深層学習における現実世界を映し取った統計パターンのことを指す。例えば、画像データを用いた生成モデルの活用法としては、実在の人物の画像データを用いて訓練することによる仮想的な人物の画像の生成や、部分的に欠損している画像データの欠損部分の補完などがある。「しかし、画像データとは異なり、人体データからの生成モデルの構築は大きな技術的チャレンジになる。人体データは1枚の画像データのように全てそろっているわけではなく、多くのデータセットにバラバラに現れていることが多い。それらの人体データからうまく生成モデルを作ることは難しい。そこで、各データセットが持っている重なり合う属性の統計的パターンを使って、あたかも1枚の画像データがそろっているような生成モデルを作ることができた」(丸山氏)という。PFNは、深層学習や生成モデルで先進的な技術を有しており、仮想人体生成モデルの開発に大きく貢献した。

 開発した仮想人体生成モデルは統計学的には同時確率分布となる。属性Xが現れる確率を分布として表現している同時確率分布は、属性Xと異なる属性Yを入力値として用いれば、残りの属性を欠損値として推定することができる。つまり、仮想人体生成モデルがあれば、性別、年齢、生活習慣、皮脂RNAなどの観測情報を入力することで、まだ観測していないデータを推定できるというわけだ。丸山氏は「これは統計学的に非常にシンプルな概念であり、シンプルであるが故に多くの応用が考えられる、極めて汎用的なモデルだ」と強調する。

仮想人体生成モデルは1600以上の項目を備える 仮想人体生成モデルは1600以上の項目を備える[クリックで拡大] 出所:花王、PFN

 応用例としては「相対比較」と「What-ifシナリオ分析」を挙げた。相対比較では、肝機能を示すγ-GTPを推定した上で、同年齢や同じ血圧などさまざまな条件での比較が容易に行える。What-ifシナリオ分析では、理想的な筋肉の付け方を進めるための仮説を作り出すことができるという。

 なお、仮想人体生成モデルの訓練データは、項目数1500以上という多項目横断試験が1000サンプル分あり、これを中核として、花王の研究所が保有する総項目数2万以上に上る数十〜数百のサンプル、そして項目数が100以上と少ないもののサンプル数は数百万ある市販の健診データやレセプトデータから構成されている。丸山氏は「花王では、ライフケアイノベーションに役立つオープンAPI基盤を提供していく予定だが、仮想人体生成モデルは基盤上で提供される技術やサービスをつなぐ“のり”のような役割を果たすことになる」と説明する。

花王とPFNによる仮想人体生成モデル構築に向けた取り組み 花王とPFNによる仮想人体生成モデル構築に向けた取り組み[クリックで拡大] 出所:花王、PFN
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