新開発のアンテナは、cm単位など高精度の衛星測位を求める際に大きな課題となる精度低下の原因となるマルチパス波の抑制も実現した。
マルチパス波とは、アンテナが衛星からの電波を直接受信する直接波以外に、ビルなどの壁面や地面への反射を経由した電波のことだ。反射した電波は、到達するまでにわずかな遅れを生じ、遅れた時間の分だけ距離が遠いと計測されて、正確な測位を乱す要因になる。
壁面反射のマルチパス波は、信号処理による対策が比較的有効とされている。一方、直接波との到達時間差が小さい地面反射のマルチパス波は、信号処理による対策が困難だ。このため、高精度衛星測位アンテナでは、背面方向からの受信レベルを抑えるバックローブ低減技術が広く導入されている。
これまでのバックローブ低減技術は、アンテナの周囲に複数の金属製の溝を付加するチョークリングや、アンテナ背面に電波吸収体を設置するのが一般的だった。しかしこれらの部品によってアンテナが大型化してしまうという課題があった。
新開発のアンテナは、樹脂成形品に、直線状アンテナとループ状アンテナという2つの折り曲げ線状アンテナ素子を配線している。これらの2種類のアンテナは放射メカニズムが異なるため、アンテナの正面方向では強め合い、背面方向では弱め合うという性質がある。これを利用することで、それぞれの放射波を合成させてアンテナ背面方向へのバックローブ放射を低減。部品の追加によってアンテナを大型化することなく、地面反射のマルチパス波の抑制に成功した。
実際に、値が大きいほどバックローブが低いことを示すFB(Front Back)比で比較すると、新開発品はマルチパス波対策を行っていない製品と比べて、低周波数帯(L2/L5/L6帯)で約7dB(約5倍)のバックローブ改善を実現できたという。このバックローブ低減によって高い測位精度を期待できる。
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