そして、最後のユースケースが大本命であるインダストリーメタバースです。ここには皆さんもよくご存じの「デジタルツイン」が大きく関わってきます。
デジタルツインとは、IoT(モノのインターネット)やエッジコンピューティングなどの活用によって、フィジカル(現実世界)の情報を収集し、それら膨大なデータを基に、デジタル上に現実世界と同じ環境を再現することです。これにより、見える化やモニタリングが行える他、シミュレーションやAI(人工知能)を通じて分析を行ったり、洞察を導き出したりして、その結果を現実世界にフィードバックすることで、さまざまな改善活動などにつなげられます。
インダストリーメタバースは、ここで構築されたデジタルツインの“デジタル側”の環境を、ビジュアルでは捉えづらいデータ活用のサイクルとしてではなく、工場であれば工場そのものを1つのバーチャル空間内に表現してしまうアプローチだと考えられます。ある意味、本当の意味でのデジタルツインを実現できる手段だといえるのかもしれません。関係者は、現実世界からバーチャル空間内にある工場の中に直接入り込んで生産ラインの様子を確認したり、あるいは現実世界では試すことが難しいシミュレーションや評価などを行ったりしてデジタルの中で試行しながら目的を追求し、得られた結果を現実世界で活用するといったことが可能になります。
既に関連したソリューションも整備されつつあり、例えば、先ほども紹介したNVIDIAのOmniverseはコラボレーションプラットフォームとしての役割にとどまらず、デジタルツインプラットフォームとしての側面も持ちます。実際、BMWではOmniverseやロボティクスプラットフォームの「NVIDIA Isaac」などを活用し、自動車工場のバーチャルファクトリーを再現してスマート工場の実現に役立てています。また、Amazon Web Services(AWS)が2021年11月に発表した「AWS IoT TwinMaker」なども実環境システムのデジタルツインを短期間で構築できるサービスとして、ビル、工場、産業設備、製造ラインなどへの展開を進めようとしています。
さて、筆者の解釈が足りていない部分もあったかと思いますが、メタバースは単なる一般向けのバズワードではなく、モノづくり、設計業務などにも十分関わりのあるトレンド、むしろ積極的に関わっていくべきものだということをご理解いただけたでしょうか。
もちろん、2022年にいきなりそういった世界が製造業の中で一気に広がるわけではありませんが、関連する要素技術やソリューションがたくさん登場することが予想されますので、他人事とは思わずに、「自身の業務でどのように活用できそうか」という視点に立って、メタバースに向き合ってみる1年にしていただければ幸いです。
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