VR/ARが描くモノづくりのミライ 特集

製造業こそ「メタバース」に真剣に向き合うべきMONOist 2022年展望(2/3 ページ)

» 2022年01月07日 10時00分 公開
[八木沢篤MONOist]

2.ビジネスコラボレーションメタバース

 ビジネスコラボレーションメタバースと定義したこちらのユースケースは、現時点でのWeb会議システムによるオンラインミーティングの延長線上にあるものと捉えることができるかもしれません。1つの同じ空間に集まり、複数の関係者が仕事の打ち合わせを行ったり、顧客と商談を行ったりするという点では共通しますが、メタバースの場合、参加者は自身にそっくりな動きのあるアバターなどで参加できるため、静止画やイニシャル表示で参加できるWeb会議システムにありがちな「ちゃんと相手に伝わっているか分からない」「相手の関心度合いが図りづらい」といったコミュニケーション上の問題を解決できる可能性を秘めています。

ビジネスコラボレーションメタバースのイメージ図 ビジネスコラボレーションメタバースのイメージ図[クリックで拡大]

 例えば、マイクロソフトが発表した「Mesh for Microsoft Teams」では、物理的に離れた場所にいる人同士が共通のホログラフィックスエクスペリエンスを通じて共同作業が行える「Microsoft Mesh」のMR(複合現実)機能、仮想会議への参加やチャット送信、共有ドキュメント上でのコラボレーションなどが実現できるそうです。また、メタバースをTeams内に構築でき、Mesh for Microsoft Teamsユーザーは、自身のアバターを用い、バーチャル空間内で他のユーザーと交流したり、プロジェクトの共同作業を進めたりといったことが可能になるといいます。今後はバーチャル空間内にリアルアバターで入り込み、ミーティングやちょっとした共同作業を行うといった世界が当たり前になっていくのかもしれません(関連記事:離れていてもアバターやホロポーテーションで共同作業、「Microsoft Mesh」発表)。

 設計者に関連した一歩踏み込んだアプローチとしては、複数の関係者によるデザインレビューでの活用が考えられそうです。トヨタ自動車では3Dキャプチャー技術を活用して、MR空間に本人と同じイメージをリアルタイムに映し出す、“ホロポーテーション”に関する試行にも取り組んでいるそうです。2021年10月に取材した「Unity道場 自動車編」の講演では、ホロポーテーション、リアルアバターを活用したデザインレビューの様子を披露していました。デザインレビューをオンラインで行うこと自体、まだ現実的なものではないかもしれませんが、その一方で、世界的な先進企業であるトヨタ自動車がその可能性をいち早く模索しているという事実があることもぜひ覚えておいてください。

ホロポーテーション/リアルアバターを活用したデザインレビューの実現に向けた取り組み ホロポーテーション/リアルアバターを活用したデザインレビューの実現に向けた取り組み[クリックで拡大] 出所:Unity道場 自動車編/栢野氏の投影スライド

3.デザインコラボレーションメタバース

 デザインコラボレーションメタバースとは、3D CADツールによる設計業務や、3D CGツールによるデザイン作業などを、オンライン上に構築された1つの空間で、それぞれの担当者がコラボレーションしながら共同作業を行う世界観を指します。

デザインコラボレーションメタバースのイメージ図 デザインコラボレーションメタバースのイメージ図[クリックで拡大]

 デザインコラボレーションという意味合いでは、3D CADベンダーなどが推進しているクラウドプラットフォーム戦略と同じ方向性だといえますが、デザインコラボレーションメタバースはさらにオープンな、より開かれたコラボレーションを実現するものだといえます。また、これまで説明してきたメタバースは基本的にアバターが自身の分身として、バーチャル空間の中で何らかの作業(アクション)を行うことが主であったのに対し、デザインコラボレーションメタバースでは3Dツールなどを介して、同じ1つの空間内でコラボレーションできる(連携して同時並行で作業が進められる)点が最大の特徴だと考えられます。

 その象徴といえるのが、NVIDIAの「Omniverse Enterprise」です。Omniverse Enterpriseは、3Dデザインなど複数のツールでチーム作業(3Dワークフロー)を行う際、そのデータ資産やソフトウェアを共有仮想空間に統合・接続し、リアルタイムのコラボレーションとシミュレーションを可能にするオープンプラットフォームです。複数の離れた場所にいる関係者が、あらゆるデバイスから単一のデータに接続し、異なる3Dツール間でのデータ互換性、リアルタイムの共同編集作業を実現します。特筆すべきは、3Dツールベンダーの枠組みに縛られないオープンかつ横断的なコラボレーションが可能だという点です。対応する3Dツールも増え続けているため、例えば、CADやBIMを操る設計者と、CGツールを駆使するデザイナーとのオンラインによるリアルタイムな共同作業の幅がより一層広がっていくことが期待されます。

Omniverseの仕組みについて Omniverseの仕組みについて[クリックで拡大] 出所:NVIDIA

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