トップの発言も過熱!? 3D CADベンダーによるプラットフォーム競争がさらに激化MONOist 2021年展望(1/2 ページ)

2020年、3D CAD業界で大きな動きを見せたのが各社による“プラットフォーム戦略”への取り組みだ。特に、ダッソー・システムズ(SOLIDWORKS)とPTCは新たなポートフォリオを打ち出し、その展開を加速させている。2021年はさらにその動きが本格化する見通しだ。

» 2021年01月06日 10時00分 公開
[八木沢篤MONOist]

 今、設計者を取り巻く環境が大きく変わり始めています。これまでも、クラウド上、あるいはオンプレミス環境で構築されたプラットフォームによって、SSOT(Single Source of Truth:信頼できる唯一の情報源)を確立し、シームレスなデータ/ツール連携などを可能にするソリューションは存在していました。しかし、設計データをはじめとする機密情報をクラウド上で取り扱うことに対する懸念などから、その多くはオンプレミスでの運用にとどまり、より柔軟な運用が可能なクラウド利用についてはあまり進んできませんでした。

 そうした状況に変化をもたらしたのが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な感染拡大です。COVID-19が社会や暮らし、経済に与えたダメージは計り知れませんが、その一方で、さまざまな業種・業界における「デジタル化」を一気に加速させました。例えば、身近なところでいえばリモートワークが当たり前となり、Web会議システムやビジネスチャットツールでのコミュニケーションも欠かせないものとなりました。また、多くの従業員が分散して仕事を効率的に遂行するために、企業側もクラウドストレージの使用を認めたり、クラウド/SaaS型グループウェアの導入を決定したりなど、新たな働き方に適した柔軟性のある環境づくりが率先して行われています。

 このような動きに対して、エンジニアリング領域におけるリモートワークはスムーズに行われたのでしょうか。図面や設計データだけでなく、試作品などを目の前にして、複数人で設計検討やレビューなどを行うケースが多いため、オフィス業務の延長線上に構築されたリモート環境では何かと不都合も多かったのではないでしょうか。こうした状況を踏まえ、今、3D CADベンダーがクラウド/SaaSプラットフォームの利用を前提とした新たな設計環境に関する戦略を次々と打ち出し、各社のプラットフォーム競争は激化の様相を呈しています。

 ここでは2020年に特に大きな動きを見せた、ダッソー・システムズ(SOLIDWORKS)とPTCの話題を中心に、このプラットフォーム競争の動向を振り返りつつ、2021年の行方を考察してみたいと思います。

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SOLIDWORKSに最強の拡張機能をもたらす新ポートフォリオ

 3D CADベンダーによるプラットフォーム戦略ですが、以前から“プロダクト思考からプラットフォーム思考への移行”をメッセージとして掲げてきたSOLIDWORKSが、いよいよ新ポートフォリオ「3DEXPERIENCE WORKS」をローンチしてきました。

米国テネシー州ナッシュビルで開催されたイベント「3DEXPERIENCE World 2020」でその詳細が語られた「3DEXPERIENCE WORKS」 米国テネシー州ナッシュビルで開催されたイベント「3DEXPERIENCE World 2020」でその詳細が語られた「3DEXPERIENCE WORKS」 ※出典:ダッソー・システムズ [クリックで拡大]

 3DEXPERIENCE WORKSとは、クラウド上で展開されるダッソー・システムズの「3DEXPERIENCEプラットフォーム」との連携を前提とし、SOLIDWORKSにさらなる拡張性をもたらすポートフォリオです。クラウド上の3DEXPERIENCEプラットフォームで動作する“ダッソーブランド”の豊富で高度なアプリケーション群を、業務やタスクに応じた「ロール(機能群)」という形で提供し、必要なテクノロジーやアプリケーションを自由に活用できます。

 この新ポートフォリオのうち、設計領域を担うコア製品が「3DEXPERIENCE SOLIDWORKS」(「コネクテッド版SOLIDWORKS」と呼ばれることもあります)です。通常のSOLIDWORKS、いわゆる“デスクトップ版SOLIDWORKS”との違いは、クラウド上の3DEXPERIENCEプラットフォームとの接続を前提としているという点で、SOLIDWORKSの使い勝手の良さはそのままに、そこにクラウドプラットフォームの価値を融合させたものだといえます。

「3DEXPERIENCE SOLIDWORKS」オファーについて 「3DEXPERIENCE SOLIDWORKS」オファーについて ※出典:ダッソー・システムズ [クリックで拡大]

 3DEXPERIENCE SOLIDWORKSは、クラウド上の3DEXPERIENCEプラットフォームと接続されているため、設計したデータは自動的に3DEXPERIENCEプラットフォームのデータベースに保存されます。また、設計環境である3DEXPERIENCE SOLIDWORKSから、同じく3DEXPERIENCE WORKSポートフォリオに含まれるCAEの「SIMULIAworks」、製造業向けERPの「DELMIAworks」、PLMの「ENOVIAworks」といった、その他のアプリケーション群にシームレスにアクセスできます。これらアプリケーション群の多くは、ダッソーの豊富なアプリケーション資産をベースとする高度な機能を有しており、3DEXPERIENCEプラットフォームという共通基盤を介すことで、SOLIDWORKSの機能を大きく拡張することが可能です。

 もちろん、クラウド利用が前提であるため、常に最新バージョンを利用でき、設計データも3DEXPERIENCEプラットフォームのデータベース上で管理されているので、複数の設計者や関係者によるコラボレーションも容易に実現できます。SOLIDWORKSのブランドCEOであるジャン・パオロ・バッシ氏は「新たなポートフォリオ(3DEXPERIENCE WORKS)により、設計から製造までの未来が手に入る」と述べています。

 また、バッシ氏は「3DEXPERIENCE SOLIDWORKSは、クラウドプラットフォームと連携した最強の拡張機能をもたらす。われわれには約10年ものクラウドプラットフォームの実績がある。今頃になってクラウドプラットフォームを叫ぶ競合他社もいるが10年遅い」との強気な姿勢を示しています。なかなか過激な発言に聞こえますが、裏を返せば、それだけ競合他社(特にPTCのこと?)の動きを気にしているようにも思えます。

 とにかく一番の魅力は、設計環境として定評のあるSOLIDWORKSから、ダッソーブランドの強力なアプリケーション群を一口サイズで、柔軟に、シームレスに利用できる点でしょう。根強い人気を誇る既存のデスクトップ版SOLIDWORKSユーザーが、この新ポートフォリオにどこまで関心を示しているのか、新規ユーザーやスタートアップ企業といった新規顧客層をどこまで取り込めるのかも気になるところです。

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