トップの発言も過熱!? 3D CADベンダーによるプラットフォーム競争がさらに激化MONOist 2021年展望(2/2 ページ)

» 2021年01月06日 10時00分 公開
[八木沢篤MONOist]
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Onshapeの買収を皮切りにプラットフォーム戦略で勢いに乗るPTC

 ここ最近、プラットフォーム戦略で勢いを感じるのがPTCです。2019年11月にSaaS型製品開発プラットフォームとして知られる「Onshape」を買収したのを皮切りに、産業分野における製品開発向けSaaSソフトウェアの展開を強化。2020年12月には、SaaS型PLMプラットフォームを展開するArena Solutionsの買収に関するアナウンスもあり、包括的なCAD+PLM SaaSソリューションの提供に向け大きく前進しています(関連記事:PTCがOnshapeに続きArenaを買収、包括的なCAD+PLM SaaSソリューションの提供へ)。

 ご存じの通り、Onshapeは元SOLIDWORKS CEO/共同創業者らが2012年に設立したSaaS型製品開発プラットフォームプロバイダーで、堅牢(けんろう)なCAD機能、強力なデータ管理機能、コラボレーション機能を統合したSaaS型の設計環境(Onshape)を展開してきました。Onshapeはクラウド上の1カ所に全てのツールとデータが存在しており、APIとデータベースを核に、その上にCAD、データ管理、ワークフロー、BOMといった機能や、管理者向けの管理機能、タスク管理、分析ツールを備える他、コミュニケーション、モバイル、アプリケーションといった機能などを1つの製品開発プラットフォームとして包含しています。完全なSaaS型であるため、従来のオンプレミスでの設計環境とは異なり、ツール類のインストール作業が不要で、ファイルコピーが横行したり、データ管理が煩雑になったりすることはありません。また、利用環境もWebブラウザさえあればよく、あらゆるデバイスからOnshapeにアクセスすることが可能です。

Onshapeが提供するもの Onshapeが提供するもの ※出典:PTCジャパン [クリックで拡大]

 PTCは、エンジニアリング領域におけるクラウド/SaaS活用を推進する存在としてOnshapeを位置付けているわけですが、大変興味深いのはCOVID-19の感染拡大前にOnshapeの買収を決めているという点です。実際、PTC 社長 兼 最高経営責任者(CEO)のジェームズ・E・ヘプルマン氏は「COVID-19の危機が訪れる前に、PTCはこの結論に至っていた。率直に言ってOnshapeの買収にこれ以上良いタイミングはなかった」と述べています。

 このコロナ禍において、エンジニアリング領域における業務のリモートワーク化は、必ずしもスムーズに遂行できたとはいえず、その解決策が求められています。単に、エンタープライズ領域と比べて後れを取っていたエンジニアリング領域のクラウド/SaaS活用をドライブさせる存在としてだけでなく、コロナ禍での働き方、ニューノーマルの時代における新たな設計環境を実現する存在として、3D CADによる設計機能とデータ管理、コラボレーションツールなどを1つのSaaS型プラットフォームで提供できるOnshapeの果たす役割は想像以上に大きなものになりそうです。

 そして、もう1つ注目されるのがOnshapeの技術をベースとするSaaSプラットフォーム「Atlas」の存在です。具体像はまだはっきりとつかめていませんが、ワークフロー、コラボレーション、分析、セキュリティ、データ/タスク管理、ロールベースコントロールなどの核となるファウンデーションを備え、その上でアプリケーションを動作させることが可能なSaaSプラットフォームとのことです。今後、PTCの主要なソフトウェアはAtlasプラットフォームに統合され、SaaSモデルとして提供していくといいます。

Atlasプラットフォームについて Atlasプラットフォームについて ※出典:PTCジャパン [クリックで拡大]

 PTCジャパン 代表取締役/PTC アジア太平洋地域 統括責任者の桑原宏昭氏は、ニューノーマルの時代ではエンジニアリング領域においてもリモートワーク化が加速するとし、「PTCはそうした次の時代に向けてエンジンをかけ、競合他社が付いてこれないほどのスピード感をもって、お客さまとともにまい進していきたい」と述べています。また、今後激化が予想される3D CADベンダーによる次世代製品環境(プラットフォーム競争)に関して、「トラディショナルな領域では競合他社が優位な側面もあるが、これからの新しい時代、次世代の製品開発環境という点において、PTCは負ける気がしない。必ずや他の追随を許さないポジションを確立できるだろう」と、IoT(モノのインターネット)やAR(拡張現実)といった先端テクノロジーに関して、市場から高評価を得ている立場から、今後激化するであろうプラットフォーム競争においてもトップを目指す考えを示しています。



 以上、ここ最近の動き(トップの過激な発言も!?)が目立つSOLIDWORKSとPTCによるプラットフォーム戦略の現状について取り上げてきましたが、オートデスクやシーメンスデジタルインダストリーソフトウェアをはじめとする他の3D CADベンダーを含め、各社はこれまで以上にプラットフォーム戦略を強く打ち出していくことが予想されます(関連記事:新たな可能性を提示するオートデスク、カギを握るクラウドデータ基盤「Forge」)。

 期せずして、COVID-19の感染拡大がエンジニアリング領域におけるデジタル化を加速させ、これまで遅々として進まなかったクラウド利用が広がりをみせています。2020年はエンタープライズ領域でのデジタルシフト、リモートワーク化が浸透しましたが、2021年はエンジニアリング領域におけるデジタル化、リモート化が加速、浸透するのではないでしょうか。また、クラウド/SaaSプラットフォームの活用により、設計の自動化やAI(人工知能)の利用がますます進展することが期待されます。

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