旭化成がDX戦略について説明。同社は「デジタル導入期」を経て現在は「デジタル展開期」にあり、2022年度からはさらなる高度化を図る「デジタル創造期」に入る。2024年度からは全従業員のデジタル活用が当たり前にある「デジタルノーマル期」となるため、2023年度には全従業員に当たる4万人をデジタル人材に育成する方針を掲げた。
旭化成は2021年12月16日、東京都内で会見を開き、同社のDX(デジタルトランスフォーメーション)戦略について説明した。2016〜2019年度の「デジタル導入期」を経て、現在は2020〜2021年度の「デジタル展開期」にあり、創業100周年を迎える2022年度からはさらなる高度化を図る「デジタル創造期」に入る。2024年度からは全従業員のデジタル活用が当たり前にある「デジタルノーマル期」となることを見据えており、そのために2023年度には全従業員に当たる4万人を一定レベルのデジタル知識を有する人材に育成する方針を掲げた。
会見に登壇したのは、DX戦略を推進するため2021年4月に設立されたデジタル共創本部の本部長を務める同社 常務執行役員の久世和資氏である。さらに、マテリアルズインフォマティクスをはじめ研究開発のDXを担当する同社 デジタル共創本部 インフォマティクス推進センター長の河野禎市郎氏、スマート工場などモノづくりのDXを担当するデジタル共創本部 スマートファクトリー推進センター長 兼 CXテクノロジーセンター長の原田典明氏も登壇。会見も、デジタル共創本部のオープンイノベーション拠点となるデジタル共創ラボ「CoCo-CAFE」で行われるなど、旭化成が推進するDX戦略を強くアピールする内容となっていた。
旭化成は、中核である素材や繊維などのマテリアル領域の他に、ヘーベルハウスのブランド名で知られる住宅領域、新規事業として注力しているヘルスケア領域で事業を展開している。2021年度の連結業績予想は売上高2兆3750億円、営業利益1900億円となっている。久世氏は「これら3領域において『持続可能な社会の実現』に向けた価値提供を進めているが、そこで重要な役割を担っているのがDXだ」と語る。
旭化成は、先述した通り、「デジタル導入期」「デジタル展開期」「デジタル創造期」「デジタルノーマル期」から成るDX推進のロードマップを策定している。まず、2016〜2019年度の4年間で進めてきた「デジタル導入期」では、研究開発や生産・製造、保守・保全、品質管理、製品設計など、主に現場の課題解決に即した取り組みで成果を上げ、デジタル技術の価値を浸透させてきた期間となる。
研究開発では、マテリアルズインフォマティクスを用いて、合成ゴムの新グレードの短期開発や、製薬などに用いられるウイルス除去フィルターの製品性能を最大化する紡糸プロセス条件の導出などが成果となる。「データとデジタルを活用するマテリアルズインフォマティクスでは、1〜2割程度ではなく、2〜3倍、10倍、100倍のレベルで研究開発のスピードアップを果たすことを目指している」(久世氏)。
生産・製造では、福島県浪江町にある水素製造プラントの世界最大級のアルカリ水電解システムについてデジタルツインを構築し、リモートでの運転操作や故障対応などを実現した。同じデジタルツインでも、人を対象とした取り組みも行っており、作業者に加速度センサーを装着して作業姿勢を解析し作業負荷の低減などにつなげている。
保守・保全では、石油化学プラントで広く用いられている保温材下の配管腐食を、運転条件などと腐食実測値からデータ解析で予測する技術を開発。石油化学工業協会の化学企業9社でコンソーシアムを形成し、この技術を業界内で横展開する取り組みも進めている。品質管理では、織製品に用いる原糸の画像と製品不良発生位置の関係から原糸品質を予測して選別する装置を開発した。これによって、何らかの不良のある原糸を用いずに織製品を製造できるので最終的な収率改善につなげられているという。
製品設計では、UV-C(深紫外線)LEDを用いた流水殺菌器で、最も殺菌効率の高い設計を自動最適化ツールで導き出した。ベテラン設計者と比べても高い性能を発揮する設計が得られることも確認した。また、これらのDXの取り組みは新規事業にも生かされており、プラント設備向けの保守・保全の成果は、商船三井と旭化成エンジニアリングの共同開発で、外航船の設備故障を早期発見する診断プラットフォーム「V-MO」に役立てられている。
デジタル導入期のDX施策は、現場向けにとどまらず、経営戦略や人材育成でも進められた。経営戦略では、特許データに基づく「IPランドスケープ」によって各事業の特性を見える化している。久世氏は「これによってコア技術をしっかり把握できるようになった。IPランドスケープでもコンソーシアム活動を推進しており、当社がリードしている」と強調する。このIPランドスケープは、他社の強みを分析することで戦略の立案に活用でき、M&Aなどにも応用がきく。
これらのDXを推進するための人材育成も「デジタル導入期」における重要な施策だ。2019年から、データ分析人材とデータサイエンス人材に分けて人材育成を進めている。データ分析人材は、主に生産技術や製造の人員が対象で、直近で営業や企画管理にも拡張している。主に、工場から取り込んだデータを活用する「製造IoTプラットフォーム(IPF)」を活用する人材になる。一方、データサイエンス人材は研究開発メンバーが対象で、マテリアルズインフォマティクスのプラットフォームである「MI-Hub」の利用が中心だ。2021年度末までに、これらデータ分析人材とデータサイエンス人材について、現場でデータ分析、機械学習を実践するユーザーやリーダーに当たる中級以上を2020年度末比で倍増となる230人まで増やしたい考えだ。
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