現場密着で実課題を解決する「デジタル導入期」に対して、現在進行形に当たる2020〜2021年度の「デジタル展開期」では、事業軸、地域軸、職域などに横串を通してデジタルを展開する取り組みが進められている。
その代表となるのが2021年5月に策定したDXビジョンだろう。Why、What、Howを明確にし、「全社員に浸透するような内容とすべく、経営層から現場社員まで約100人が関わり8カ月で策定した。ステートメントの中でも『境界を越えてつながる』というところが重要ではないかと考えている」(久世氏)。
さらに、「横串を通してデジタルを展開する」ために2021年4月に新設されたのが、久世氏、河野氏、原田氏が所属するデジタル共創本部である。デジタル共創本部の傘下には、これまで社長直轄だったIT統括部(ERPやネットワーク、セキュリティなどを扱う情報システム部門)に加え、研究・開発本部の傘下にあったインフォマティクス推進センター、生産技術本部の傘下にあったデジタルイノベーションセンターがスマートファクトリー推進センターと改称して組み込まれた。また、生産・製造を中心に進めてきたDXの取り組みを営業や企画の部門にも広げていくことを目的として、新たにCX(顧客体験)テクノロジーセンターも設立した。
ここでデジタル共創本部の存在意義にも関わるのが、マテリアル領域、住宅領域、ヘルスケア領域という事業本部との横串の通し方である。多くの企業が、縦割り組織である各事業に対して横串を通してデジタル技術を導入するのに四苦八苦しているのが現状だからだ。そこで、事業本部、事業会社との連携強化のために行っているのが、DXリレーションシップ・マネージャーの配置である。これによって、各事業領域の特性に合わせたDXの方針を策定できるようにしている。久世氏は、この体制の実効性について「本部長である私と、各センター長である河野氏と原田氏、あとIT統括部長を加えた4人がDXリレーションシップ・マネージャーを務めている。この4人が、各事業領域にいる担当役員や事業会社社長3人ずつ、計12人と密接に連携することで、デジタルを活用して成果を出すための体制を構築している。2021年4月から、リレーションシップ・マネージャー会議の開催数は70回を超えた」と説明する。
そして「デジタル展開期」では、全従業員を対象とするデジタル人材4万人育成という目標も掲げている。世界で約2000社、国内でも数百社が採用するデジタル証明・認証の規格であるオープンバッジを基に、5レベルから成る「旭化成DXオープンバッジ」の制度を2021年度からスタートさせた。レベル1、レベル2はeラーニングや座学で取得が可能だが、レベル3は、先述したデータ分析人材とデータサイエンス人材の初級に当たり、職場ごとの専門性と関わる教育内容となり数時間のプログラム受講も必要になる。4万人という目標はこのレベル3の習得であり、教育内容の策定も含めて2023年度の達成を目指している。
これらの他にも、旭化成グループ国内外88の工場を対象としたスマートファクトリー成熟度診断も行っている。目標と戦略、組織、IT、プロセス、人材・ナレッジという5つの視点から計53項目を診断する成熟度診断モデルは自社開発したものだ。これまでに、83工場で診断を完了し、各工場の特性に合わせた中計目標を策定している。また、この診断結果から、各工場における点数の高い項目の取り組み内容を共有するなどの活用が容易なこともメリットになる。
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