モーフィング翼の開発においては、目的に応じてアクチュエータなどの要素を作り込んでいくことになるが、1つのアクチュエータでは1つの変形にしか対応できない。曲げやねじれ、伸び縮みなど、さまざまな変形を1つの構造で行えれば、対応できる状況がさらに広がる。そこで津島氏らが取り組んでいるのが、メカニカルメタマテリアルの研究である。
メタマテリアルはもともと光の屈折や反射を制御できる人工物質のことであり、透明マント(光学迷彩)などの研究が有名である。人工的な設計によって自然材料にはない性質を実現するという概念にならい、音響メタマテリアルやサーマルメタマテリアルなどへと研究が広がっている。
メカニカルメタマテリアルとは、微細なユニット構造を周期的に積み上げて自然界にはない物性を実現する人工材料である。今までになかった物性の材料を作ったり、通常のゴム材料を使わずにゴムを作ったり、金属で綿のように軽い材料を作ったりといったことが可能だ(図5)。図6はユニット構造を周期的に並べたメカニカルメタマテリアルの概念設計のイメージである。このような材料の実現は3Dプリンタの進化によって可能になったといえる。
津島氏は「メカニカルメタマテリアルは、構造材であるのに加えて、振動の伝播も同時に制御できる機能性材料である点が面白いところです」と語る。検討しているのが、図7のような十字型の溝が入ったユニット構造を周期的に配置したメタマテリアルである。この周期構造は一部の振動数を遮断する性質を備える。そこで、アルミで作られた十字型パーツの、中央の交わった部分に周期構造を組み込んだものについてシミュレーションを実施。十字型の腕の一端から29kHzの振動を与えると、中央で振動を遮断するため他の3本の腕へは振動は伝わらないが、19kHzの振動を与えると、他の3つの腕へと振動が伝わることが確認できた。
現在は性能評価のために、3Dプリンタによるサンプルの造形および実験を進めているところだという。実際に騒音対策として使用するためには、さらに対応周波数を落とす必要がある。この材料を構造材へ適用することによって、例えば、機外の騒音を遮断し、機内の静音化に役立つと考えられる。また、翼にメカニカルメタマテリアルを適用することで、翼の振動を抑えて胴体を含む全体の揺れを抑えたり、フラッター現象を抑えたりなど、「安全性の向上にも寄与できるのではないか」と津島氏は期待する。
モーフィング翼を実現する要素技術は、航空分野に限らず幅広い分野への応用が可能な技術といえる。日本機械学会にはモーフィング技術研究会があり、「そこでは異なる分野との研究もでき刺激を受けています。興味を持った方は分野に関係なく、ぜひ参加してもらえればと思います」と玉山氏は語る。異分野とのコラボレーションによる研究は、開発を加速させるとともにさまざまな相乗効果を生み出すだろう。今後の進展が楽しみだ。
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