ロードノイズ遮音で4分の1の軽量化、次世代e-POWERを静かにする新技術CES2020

日産自動車は次世代の遮音材「音響メタマテリアル」の開発を進めている。シリーズハイブリッドシステム「e-POWER」の搭載車を進化させる方法の1つという位置付けで、静粛性を高めることで電気自動車(EV)の乗り心地に近づける。

» 2019年12月26日 06時00分 公開
[齊藤由希MONOist]

 自動車の電動化が進むに従い、車内の静粛性が従来以上に求められている。こうした動向を受けて、日産自動車は次世代の遮音材「音響メタマテリアル」の開発を進めている。シリーズハイブリッドシステム「e-POWER」の搭載車を進化させる方法の1つという位置付けで、静粛性を高めることで電気自動車(EV)の乗り心地に近づける。

 音響メタマテリアルは、膜と、規則的に同じ図形が並んだ周期構造によるシンプルな構成で、はた目には遮音材には見えないが、一般的な遮音材と比較して4分の1から5分の1の重量で同等の遮音性能を発揮する。現在、自動車への適用を目指して開発を進めている。

音響メタマテリアルの基本構造(クリックして拡大)

 遮音材は一般的に遮音性能と重さが比例するが、音響メタマテリアルは、軽量でありながら重い素材と同等の遮音性能を発揮する。遮音に当たって重要なのは、周期構造の1つ1つの図形が小さいことと、規則的に同じ図形が並んでいること、周期構造が膜を支えていることであるという。周期構造を音が透過するときに、膜で空気の振動を変えることにより遮音する。「周期構造と膜という条件がそろっていれば、膜の材質や厚さは問わない。また、周期的に並んでいれば図形は三角形でも四角形でも六角形でも構わない」(日産自動車の担当者)。

 音響メタマテリアルは、膜の種類や周期構造の設計の調整によって、特定の帯域の音を狙って除去することが可能だという。低い周波数のため従来の遮音材では除去しにくかったロードノイズも遮音するとしている。音響メタマテリアルは消費者向けエレクトロニクス展示会「CES 2020」(2020年1月7〜10日、米国ネバダ州ラスベガス)でも披露する。

周期構造が細かくなるほど遮音性能が高まる(左)。現在のe-POWERのユニット(右)(クリックして拡大)
ゴムやガラス、鉄に並ぶ遮音性能を発揮するという(クリックして拡大) 出典:日産自動車

e-POWERをEVに近づける工夫

 日産自動車は電動化戦略の2本柱として、EVとe-POWERに取り組んでいる。e-POWERは今後、燃費と静粛性の向上を追求する。静粛性の向上は、音響メタマテリアルの活用と、エンジンの始動タイミングの最適化によって実現していく。

 e-POWERはシリーズハイブリッドのためエンジンは発電専用となっており、バッテリーの電力が少なくなるなど特定の条件でエンジンが始動する。次世代e-POWERでは、ナビゲーションシステムやV2X(車車間、路車間通信)、ビッグデータの分析などにより、1台1台に最適なタイミングでエンジンを使って発電させるという。

 例えば、目的地までに勾配がある場合はエンジンではなく回生ブレーキを使って効率的に充電しながら走行する。また、路面が荒い場合にはエンジン音が聞こえにくいことから、路面の粗さを検知してエンジンを始動させるという制御も取り入れる。路面の粗さを検知する手法は「現時点では公開できないが、シンプルな方法でやる。乗員がエンジン音を聞く時間は3割ほど減らせるだろう」(日産自動車の担当者)。こうした工夫だけでなく、ドライバーの運転特性を日々学習することで、エンジンを使った充電のタイミングをさらに最適化するという。

 発電用のエンジンにはリーンバーンや排熱回収、「VCターボ」でも採用したマルチリンク機構によるエンジンのロングストローク化といった技術を組み合わせることで、熱効率50%を目指す。e-POWERの搭載車種の大きさに合わせて、エンジンの排気量は2〜3種類そろえる考えだ。

次世代e-POWERではエンジンの熱効率50%を目指す(左)。エンジンで発電するタイミングを最適化する(右)(クリックして拡大) 出典:日産自動車

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