蓮沼氏によれば、化石資源を基に経済成長を果たした産業革命には地球環境の悪化という負の側面があったという。そこで、生物資源と最新技術により、地球環境課題の解決と経済発展の共存を目指す考え方として注目を集めているのが「バイオエコノミー」である。バイオエコノミーでは、再生可能な生物資源と最新のバイオ技術を用いて経済活動であるエコノミーを行うが、「このバイオエコノミーをより経済性良く実現するのに欠かせないのがデジタルプラットフォームだ」(蓮沼氏)という。
また、バイオエコノミーの市場規模は、OECD(経済協力開発機構)の2009年の調査で2030年に180兆円と想定されている。このうち39%と最も比率が多いのが、工業におけるモノづくりと関わるインダストリアルバイオだ。蓮沼氏は「これまでバイオテクノロジーは農業や健康、医療の発展に貢献してきたが、今後はモノづくりとの関わりも大きくなっていくだろう」と強調する。なお、マッキンゼーレポートの2020年の調査では、2030年のバイオエコノミーの市場規模は200兆〜400兆円まで上振れしているという。
バイオエコノミーの技術的背景としては「超高速DNA解析」「バイオインフォマティクス」「ゲノム合成・編集」がそれぞれ進化するだけでなく、融合することで今まで利用し得なかった“潜在的な生物機能”を引き出せるようになっている事実がある。これに、ロボティクスとの融合による自動化、IoT(モノのインターネット)やAIによる開発の高速化といったデジタル技術との組み合わせによって、スマートセルの産業化であるスマートセルインダストリーも可能なる。
なお、細胞を使った汎用化学品の高効率生産では、樹脂原料となる1,4-ブタンジオール、ナイロン中間体、ゴム原料となるファルネセンやイソプレン、1,3-プロパンジオール、コハク酸などがある。抗マラリア剤のアルテミシニンなど従来プロセスで難しかったものを合成した実績もある。
神戸大学は、バイオエコノミーにつながるスマートセルの創製プラットフォームのプロセスとして、Design(代謝設計/遺伝子設計)→Build(宿主構築)→Test(生産性評価/メタボローム解析)→Learn(実験結果の解析)という「DBTLサイクル」の効率化の検証に取り組んできた。このDBTLサイクルを自動化するために島津製作所と共同開発しているのが、今回の自律型実験システムになる。
現在研究を進めているスマートセルでは大腸菌の一種を用いている。スマートセルによって生産する物質のターゲットは2つあり、1つは開発が成功した場合の社会実装が容易な医薬品原料となる高機能性素材、もう1つは極めて市場規模の大きいポリマー原料となる汎用化学品を挙げた。蓮沼氏は「高機能性素材は3〜5年以内、汎用化学品は5〜8年くらいで実用化したい。自律型実験システムの開発でも、神戸大と島津製作所の研究グループは世界の最先端を走っていると考えている」と述べている。
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