大きな要因の1つは「電解液の分解」です。電解液の分解反応は電池の残容量が多い状態、つまり100%に近いときほど進行しやすい傾向があります。そのため、あまり電池が消費されていないうちから頻繁に継ぎ足し充電をしてしまうと、電解液が分解されやすい状態でいる時間が長くなり、電池寿命に悪影響を与える恐れがあります。
もう1つの大きな要因は「活物質の反応」です。これまでのコラムの中でも何度か解説してきましたが、活物質の多くは充放電によってリチウムイオンが出入りすることで、少なからず膨張・収縮といった体積変化や結晶構造の変化を起こします。そして、そういった反応の生じやすさは一様ではなく、活物質の種類や電池の容量範囲によって異なる挙動を示します。
負極活物質として一般的な黒鉛(グラファイト)の場合、電池容量の70%〜60%領域と20%〜10%領域で構造変化が生じるといわれており、この領域を通過する回数が多いほど負極の損耗が激しくなり、電池寿命が低下する可能性があります。
正極活物質においても、含有金属の種類(ニッケル、コバルト、マンガンなど)や結晶構造によって反応する電圧、すなわち寄与している容量範囲領域が異なります。そのため、あまり頻繁に継ぎ足し充電を繰り返し、特定の容量領域を集中的に使用すると、そこに反応点をもつ材料のみが酷使されて大きな負荷がかかってしまい、電池寿命の低下につながる恐れがあります。
そうはいっても、一般ユーザーが電池搭載製品を日常的に使用する場合、電池に含まれる材料種とその反応点を考慮して、充放電状態を管理するというのは非現実的です。以下の2点を意識し、現実的に無理のない範囲での運用を心掛けるとよいかと思います。
充電しながら操作し続けると電池の寿命が縮む? 答えは(〇)[クリックで答えを表示]
充電しながらの操作は、これまでに紹介してきた「高負荷による発熱」「電池残容量100%付近の長時間保持」が生じやすいため、あまり望ましい状態ではありません。最近の製品は充電中に大きな負荷がかからないように制御されているものも多いですが、明らかな発熱を感じるようであれば使用を控えた方がよいでしょう。
【まとめ】
今回は概要をまとめてみましたが、リチウムイオン電池はその使用材料の組み合わせによって大きく特性が異なり、種々の運用条件によっても劣化傾向が変化します。また、電池は日々開発が進められており、劣化に関する諸問題も徐々に改善されてきています。そのため、今回ご紹介した内容についても、あくまでも現時点での一般論の1つとしてご理解いただければ幸いです。
種々の劣化傾向に関する論文を整理した内容(※2)が、科学技術振興機構 低炭素社会戦略センターより報告されています。この報告は「正極活物質」(三元系、LFP)、「負極活物質」(黒鉛、LTO)、「温度」「電流値」「容量範囲」などが劣化挙動に与える影響を各論文から抜粋して整理したものとなっています。より専門的な内容に興味のある方は一度ご覧になってみてはいかがでしょうか。
(※2)リチウムイオン電池の劣化挙動調査:https://www.jst.go.jp/lcs/pdf/fy2019-sr-01.pdf
日本カーリット株式会社 生産本部 群馬工場 電池試験所
研究開発職を経て、2018年より現職。日本カーリットにて、電池の充放電受託試験に従事。受託評価を通して電池産業に貢献できるよう、日々業務に取り組んでいる。
「超逆境クイズバトル!!99人の壁」(フジテレビ系)にジャンル「電池」「小学理科」で出演。
▼日本カーリット
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▼電池試験所の特徴
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▼安全性評価試験(電池)
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