日立が脱炭素に取り組むきっかけは「コロナ禍が生み出した青空」脱炭素

日立 執行役副社長のアリステア・ドーマー氏は、2021年11月に開催される「COP2」に協賛する「プリンシパル・パートナー」に同社が就任したいきさつを説明。「2021年の世界的なイベントとして東京オリンピック・パラリンピックに次ぐ2番目の規模となるCOP26が、地球環境の保全に向けた解決案を見いだすことに貢献したい」と述べた。

» 2021年10月25日 07時30分 公開
[朴尚洙MONOist]
日立のアリステア・ドーマー氏 日立のアリステア・ドーマー氏

 日立製作所(以下、日立)は2021年10月22日、オンラインで会見を開き、同社 執行役副社でChief Environmental Officer(最高環境責任者)を務めるアリステア・ドーマー氏が同年11月に開催される「COP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)」に協賛する「プリンシパル・パートナー」に就任したいきさつなどについて説明した。ドーマー氏は「当社が脱炭素の取り組みに貢献できることを証明した上で、COP26の日本唯一のスポンサーとして選ばれたことは光栄だ。2021年の世界的なイベントとして東京オリンピック・パラリンピックに次ぐ2番目の規模となるCOP26が、地球環境の保全に向けた解決案を見いだすことに貢献したい」と述べた。

 同社は同年3月10日にCOP26のプリンシパル・パートナーに就任することを発表している。そのために、国際的な団体であるSBTイニシアチブから、2015年のパリ協定の目標である気候変動による世界の平均気温上昇を産業革命前と比べ1.5℃未満に抑えるという「Business Ambition for 1.5℃」に賛同する企業として認定を受け、これにより国連が推進する「Race to Zero Campaign」への参画を果たした。

 ドーマー氏は「今から約1年半前、コロナ禍によるロックダウンの影響で産業活動が停止したことにより、北イタリアに青い空が見え、インドのデリーの空もきれいになった。このことから、脱炭素にどのように取り組むべきか考えるようになった」と語る。日立は、環境に優しい輸送手段である蓄電池搭載型の鉄道車両の他、よりクリーンな電力網を実現する日立エナジー(2021年10月1日で日立ABBパワーグリッドから社名変更)、さまざまな産業技術との組み合わせで脱炭素に講演するデジタルソリューション群「Lumada」などの事業を展開している。「世界各国政府がコロナ禍から回復する経済活性化に向けてグリーンインフラストラクチャへの大規模投資を検討しており、この需要に対応できるよう事業方針を転換しなければならない」(同氏)。

 英国のグラスゴーで開催されるCOP26では、パリ協定で定めた目標を達成するための具体的なアクションプランの策定が求められている。ただし、先進国各国の思惑や新興国が求める経済成長とのバランスなどを含め議論は難航が予想されている。ドーマー氏は「多くの議論によって確実なアクションプランへの理解が深まる。それによって世界が目標に向かっていけるように望む」と期待する。

電力網への投資が大きな機会に

 ドーマー氏は、報道陣からの質問に答える形で、世界的な脱炭素需要に向けて日立がどのような貢献ができるかについて回答した。まず、環境経営指標の一つであるTNFD(自然関連情報開示タスクフォース)との関連では、日立ヴァンタラによる熱帯雨林保護へのデジタル技術活用の事例を挙げた。熱帯雨林における音響データの変化から、森林の違法伐採の活動を早期に見つけ出すというもので、COP26ではこの成果をメインシアターで発表する予定だという。

 直近の原油価格高騰についてドーマー氏は「欧州では、コロナ禍からの景気回復で電力とガス需要が高まっている一方で、例年より風が弱く風力発電による電力が減少していることが影響している」という見立てだ。ただし「長期的に見た場合に、EV(電気自動車)化などが進めば電力需要が高まり再生可能エネルギーへの投資が加速するだろう。その中で重要になるのは電力網の接続性だ。風が吹いている所や太陽が照っている所から、そうでない所へ電力を送るには高効率の電力網が必要だ。先日、イタリア政府も再生可能エネルギーに関する接続性への投資を決めた。この分野で世界的なプレーヤーである日立エナジーを擁する日立にとって大きな機会になるだろう」(同氏)という。

 日立とイタリア政府との関係性は深いようで「エネルギーに関するアイデアを求められており。積極的に関わっていく」(ドーマー氏)とした。また同氏は「政府だけ、日立1社だけでできることは限られている。官民のパートナーシップが重要で、チームとしてイノベーションを生み出す必要がある」と強調する。

 なお、英国政府が2021年10月に発表した発電に関する脱炭素目標では、スケジュール前倒しに向けて原子力の利用にも言及している。日立はかつて英国の新原子力発電所建設プロジェクト(ホライズンプロジェクト)に参画していたが、2019年1月に減損計上して事業を凍結、2020年9月には事業撤退を表明していた。ドーマー氏は「英国政府からビジネスとして成り立たせるための新しい提案がない限り方針に変更はない」と述べるにとどめた。

⇒その他の「脱炭素」の記事はこちら

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.