予想外の情報漏えいをどう防ぐ? スタートアップとのNDAの定め方スタートアップとオープンイノベーション〜契約成功の秘訣〜(3)(3/3 ページ)

» 2021年10月13日 09時00分 公開
[山本飛翔MONOist]
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秘密保持義務の有効期間

 秘密保持契約においては、秘密保持の設定期間と関連して、契約期間終了後に秘密保持義務をどの程度の期間課すかについても注意しましょう。

 具体的な期間については、事業的観点や開示される情報の性質(対象となる秘密情報が陳腐化する期間はどの程度かなど)によって調整する必要があります。期間の定めがないものとしつつ、一方当事者からの解約申し入れで契約を終了させるようにする、あるいは、契約の有効期間を具体的に定めておく、自動更新条項を設けるなどの案が考えられます。

 契約終了後の秘密保持義務については、残存条項などで秘密保持義務を課すことが考えられますが、その期間としては、3年程度と設定する場合が比較的多いように見受けられます。なおこの場合でも、スタートアップとの連携事業者は優越的地位の濫用に該当することを回避するよう留意する必要があります。有効期間について、モデル契約書(新素材分野)は次のように定めています。

秘密保持契約10条

本契約の有効期限は本契約の締結日より1年間とする。ただし、本契約の終了後においても、本契約の有効期間中に開示等された秘密情報については、本契約の終了日から3年間、本契約の規定(本条を除く。)が有効に適用されるものとする。

協業段階への移行期限を設ける

 スタートアップはVC(ベンチャーキャピタル)などの投資家から短期間の間に資金調達を繰り返しながら、1社でも多くの大企業との協業実績を作る必要があります。そのため、ある大企業との間で協業が実現不可能となれば、早期に別の大企業との協業を進めたいという実情があります。

 そこで、NDA締結後に開示した情報を基に、次段階に進むか否かを決定する期限を設定することが考えられます。ただし、検討状況によっては、当該期限を延長する必要性が当事者双方にある場合があるため、期限延長の余地は残しておいた方が良いでしょう。モデル契約書(新素材分野)では、以下のようにしています。

秘密保持契約7条

 甲および乙は、本契約締結後、技術検証または研究開発段階への移行およびPoC契約または共同研究開発契約の締結に向けて最大限努力し、乙は、本契約締結日から2カ月(以下、「通知期限」という)をめどに、甲に対して、PoC契約または共同研究開発契約を締結するか否かを通知するものとする。ただし、正当な理由がある場合には、甲乙協議の上、通知期限を延長することができるものとする。

※記事に合わせて一部改変

終わりに

 今回は、事業連携指針を踏まえつつ、スタートアップとのオープンイノベーションにおけるNDAにおける留意点の残りのポイントについてご紹介しました。次回は、スタートアップとのオープンイノベーションにおけるPoCにおける留意点をご紹介いたします。

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筆者プロフィール

山本 飛翔(やまもと つばさ)

【略歴】

2014年 東京大学大学院法学政治学研究科法曹養成専攻修了

2016年 中村合同特許法律事務所入所

2019年 特許庁・経済産業省「オープンイノベーションを促進するための支援人材育成及び契約ガイドラインに関する調査研究」WG(2020年より事務局筆頭弁護士)(現任)/神奈川県アクセラレーションプログラム「KSAP」メンター(現任)

2020年 「スタートアップの知財戦略」出版(単著)/特許庁主催「第1回IP BASE AWARD」知財専門家部門奨励賞受賞

/経済産業省「大学と研究開発型ベンチャーの連携促進のための手引き」アドバイザー/スタートアップ支援協会顧問就任(現任)/愛知県オープンイノベーションアクセラレーションプログラム講師

2021年 ストックマーク株式会社社外監査役就任(現任)

【主な著書・論文】

「スタートアップ企業との協業における契約交渉」(レクシスネクシス・ジャパン、2018年)

『スタートアップの知財戦略』(単著)(勁草書房、2020年)

「オープンイノベーション契約の実務ポイント(前・後編)」(中央経済社、2020年)

「公取委・経産省公表の『指針』を踏まえたスタートアップとの事業連携における各種契約上の留意事項」(中央経済社、2021年)


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