予想外の情報漏えいをどう防ぐ? スタートアップとのNDAの定め方スタートアップとオープンイノベーション〜契約成功の秘訣〜(3)(2/3 ページ)

» 2021年10月13日 09時00分 公開
[山本飛翔MONOist]

目的外使用を禁止する

 秘密保持義務を課すだけでは、秘密情報の受領者が自社内で開示目的外の情報流用を行っても、その義務違反を問うことは困難です。そこで一般的には、開示目的外の秘密情報の使用を禁止する条項を入れます。

 この目的外使用禁止の条項が、禁止を意図した使用行為を確実に捕捉できるように、秘密保持契約の目的を明確かつ具体的に定めることが重要です。モデル契約書(新素材分野)では、以下のように定めています(秘密保持契約3条)。なお、目的の定め方については、第2回の連載をご参照ください。

第3条

受領者は、開示者から開示等された秘密情報を、本目的以外のために使用してはならないものとする。

秘密情報の複製、リバースエンジニアリングを防止する

 受領者側での秘密情報の複製は、(目的外使用などのケースを除いて)原則として自由です。しかし、秘密情報が複製されるほど、意図的か否かを問わず情報漏洩のリスクは高まります。そこで、秘密情報の複製を一定の範囲で制限することが望ましいでしょう。例えば、「開示者の事前の書面による承諾がある場合に限り、本目的のために必要な範囲において複製を認める」などの一文を入れておくなどの対策があり得ます。

秘密情報の漏えいを防ぐ

 また、提供する秘密情報の種類次第では、リバースエンジニアリングの禁止条項を入れることも考えられます。例えば、素材サンプルを秘密情報として提供する場合、受領者にその組成や構造を分析されてしまい、自社の競争力を担保する営業秘密が意図せず露見するリスクもあります。このようなリスクを避けるため、リバースエンジニアリングを明確に禁止する条項が必要です。モデル契約書(新素材分野)では以下のように定めています。

秘密保持契約5条

受領者は、秘密情報について、開示者の事前の書面による同意なく、秘密情報の組成または構造を特定するための分析その他類似の行為を行ってはならない。

損害賠償額はどう設定する?

 秘密保持契約に違反した場合、契約に該当する条項を盛り込んでいれば、損害賠償の請求も可能です。損害賠償請求を巡って争点となりやすいのが、損害賠償額の予定、違約金、賠償範囲や賠償額の制限などです。

 まず、秘密漏えいにより発生した損害の有無とその範囲を立証することは困難です。そのため、予防的対策として、まずは契約で違約金や損害賠償額を定めておき、目的外使用や秘密漏えいに対する抑止力を高める必要があります。この場合、受領者にプレッシャーをかけられる金額に設定しなければなりません。金額があまりに低いと、「この金額さえ払えば目的外使用をしても構わない」と受け取られるリスクがありますので、慎重に検討する必要があります。モデル契約書(新素材分野)の記載を参考にしてみてください。

秘密保持契約8条変更オプション条項

本契約に違反した当事者は、相手方に違約金として1000万円を支払う。ただし、相手方に生じた損害が本違約金額を上回る場合には、その超えた部分についても賠償するものとする。

 なお、情報の目的外使用によって、損害賠償額の予定額を超える損害が発生する可能性もあり得ます。しかし、損害賠償額はその予定額に限定されない旨の合意である旨を立証しない限り、予定額を超えた損害賠償を請求できないと解されています。また、違約金は損害賠償額の予定額を構成すると推定されるため(民法420条3項)、開示者としては、当該部分についても損害賠償請求できることを明記しておく必要があります。

 損害賠償の範囲については、(1)通常損害に限定する、(2)特別損害も対象とする、(3)逸失利益も対象とする※3、(4)弁護士費用も対象とする、などといった点が争われます。いずれの立場からも、これらの損害が賠償の対象となるかを明記しておくべきでしょう。

※3:逸失利益は、通常損害にも特別損害にもなりうるため、特別損害を対象外としても逸失利益も対象外になるとは限られないことには留意されたい。

 さらに、もっぱら受領者のリスク軽減の観点から、損害賠償額の上限を設ける場合もありますが、この場合でも、故意に契約に違反した場合には、かかる責任の減免は信義則(民法1条2項)に反して許されない※4と解されていることに留意する必要があります。

※4:潮見佳男『プラクティス民法債権総論【第3版】』(信山社出版、2007年)174〜175頁。

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