自動車業界をはじめ半導体不足の影響で製品の生産に遅れが出ているという指摘がある。ルネサスは、自社工場での生産を抑えてファウンドリーやOSAT(Out Source Assembly and Test)を広く活用する「ファブライト」モデルを採用しているが、急速に伸びる半導体需要に対応すべく、まずは自社工場の設備増強などを進める方針だ。
現在の同社の工場は前工程が国内5拠点、米国1拠点、後工程が国内3拠点、海外5拠点となっている。同社 執行役員常務兼生産本部長の野崎雅彦氏は「これらの各拠点での生産品目について、ハイエンドMCUとローエンドMCU、アナログ、PMOS、IGBTにフォーカスした形で再編を進めている」と語る。例えば、300mmウエハーの前工程ラインを持つ那珂工場のN3 FABでは、従来のMCUとSoCから、IGBTや90nmプロセスのアナログ、ハイエンドMCUの生産に移行する。
その結果として、ファウンドリーやOSATなどの外部委託を含めた2023年の生産規模は、前工程のハイエンドMCUが2021年比1.5倍、ローエンドMCUが同1.7倍、IGBTが同1.6倍、アナログ+IGBT以外のパワーデバイスが同1.4倍に拡大。後工程も、ハイエンドMCUが同1.6倍、ローエンドMCUが同1.1倍、SoCが同2.1倍、アナログが1.6倍に増強されるという。
足元の設備投資も、N3 FABの復旧費用を含めて積み増している。これまでファブライトとして自社工場での生産規模を減らしていく方向性だったが、これらの設備増強により自社工場の前工程の生産規模は徐々に増えていくことになりそうだ。
野崎氏は、工場での歩留まり改善や生産性向上で活用しているFDC(Failure Detection Classification)システムの取り組みを強化する方針を打ち出した。
2017年から導入しているFDCシステムは、ルネサス製のMCUやMPUなどにAI(人工知能)を組み込むための技術「e-AI」を活用しており、2000件以上のモニタリング機能を備え、2020年には年間で3億2000万円の生産機会損失コスト(ロスコスト)の削減に貢献した。野崎氏は「次の4年間でさらに2000件のモニタリング機能を追加して、さらに年間3億2000万円のロスコスト削減を積み増したい」と述べる。
工場の歩留まりや生産性は、立ち上げ時期から向上した後、安定期に入ってから、装置や設備の老朽化が始まる時期から悪化するバスタブ曲線で示されることが多い。ルネサスの工場も既に稼働から20年を経過し、設備老朽化が始まるタイミングであり、その対策も必要になっている。「今後は、積極的に装置の部品交換や、それで不足する場合には装置そのものの置き換えなども進めて、歩留まりや生産性が低下しないようにする」(野崎氏)という。また、柴田氏が挙げた工場間でのコンペについても、歩留まりや生産性の向上につながる標準作業化の取り組みなどで評価していくとしている。
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