ルネサス エレクトロニクスの好業績の要因の一つになっているのが、「アナログ+パワー+組み込みプロセッシング」をコンセプトとするソリューション「ウイニング・コンビネーション(ウイニングコンボ)」だ。このウイニングコンボを展開するSST(システムソリューションチーム)は、新たな戦略として「クイックコネクトIoT」を投入した。
国内半導体大手のルネサス エレクトロニクスは、直近発表の2021年12月期第2四半期(4〜6月)業績で想定を上回る増収増益を発表するなど好調だ。この好調さの要因の一つになっているのが、「アナログ+パワー+組み込みプロセッシング」をコンセプトに、さまざま産業分野の顧客の短期開発に役立つソリューションを提供する「ウイニング・コンビネーション(以下、ウイニングコンボ)」だ。
これまでもルネサスは、同社の主力製品であるマイコンやMPUを中核とする「キットソリューション」や「プラットフォーム」などによって事業拡大を図ろうとしてきたが大きく成功していたとはいい難い。ウイニングコンボもそのコンセプトの字面だけを見れば、従来と大きく変わったようには見えないだろう。
しかし、ウイニングコンボが従来と大きく異なるのは、2017年のインターシル(Intersil)、2019年のIDTの買収を経てから発足した取り組みであることだ。インターシルのアナログ電源、IDTのアナログICやセンサーなどが加わったことで、真の意味で「アナログ+パワー+組み込みプロセッシング」のソリューションを展開できるようになり、それらを推進するための人材も加入したのである。
現在、ルネサスの事業は、車載半導体を扱うオートモーティブソリューション事業と、車載半導体以外の産業機器向けや汎用ICを手掛けるIoT・インフラ事業に分かれており、それぞれでウイニングコンボを展開している。これらのうち、IoT・インフラ事業でウイニングコンボをけん引しているのが、営業技術統括傘下のSST(システムソリューションチーム)であり、その活動を主導しているのは、同社 IoT・インフラ事業統括本部 グローバル営業統括部 バイスプレジデントで、買収前にはIDT日本法人のカントリーマネージャーを務めていた迫間幸介氏だ。
迫間氏は「ルネサスに入社して実感したのは『ここは宝の山だ!』という喜びだった。売れるものをたくさん持っている。そして、プロセッサという頭脳に当たる製品がなかったIDTやインターシルの製品といい化学反応が生み出せる、システムソリューションを訴求できる、と確信した」と語る。
IDT買収後にSSTを立ち上げてから、IoT・インフラ事業におけるウイニングコンボの展開は早かった。2020年末までに約180種類のシステムソリューションを整備し、さらに現時点までにラインアップを225種類に拡大している。「IDTの買収完了後には、グローバル展開を推し進めるルネサス全体の方針もあり、ウイニングコンボの開発はグローバルで進められた」(迫間氏)という。
例えば、コロナ禍の中で好評を得ているウイニングコンボとして「コンパクトパルスオキシメーター WITH BLE5.0」がある、市場需要が急拡大しているパルスオキシメーターをBluetoothで無線化するとともに、スマートフォンで血中酸素飽和度や心拍を表示するアプリケーション、クラウドと連携するためのソフトウェアなどもパッケージしており、短期開発に役立つようになっている。また、飲食店などで来客が“密”になることを避けるのに役立つ「空気質センサーPOC」は、CO2などの空気質や温湿度、明るさなどをまとめてセンシングできるソリューションだ。こちらもスマートフォン用アプリケーションがパッケージされている。
SSTの活動の趣旨は「市場動向をインプットとして、顧客が求めているボードレベルのシステムソリューションを素早くアウトプットし、価値提供を行うこと」(迫間氏)にある。NEC、日立、三菱電機の半導体部門に源流を持つルネサスの営業活動はこれまで、主要顧客に合わせることが優先される場合も多かった。迫間氏は「そういったトップユーザーではないものの、マスマーケットに早急に市場投入したいと考えているユーザーに対応できるようなスピード感を持って活動している」と強調する。
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