開発技術で使用するフラックスは、レアアース酸化物を溶かし、融解温度を下げる役割がある。鉄や炭素を溶解せず、安全かつ安価で、レアアース酸化物を低温かつ少量で融解する、という条件を満たす素材として、ナトリウムホウ酸塩を採用した。ナトリウムホウ酸塩は「ホウ砂」として簡単に入手でき、スライムをつくる子供向けの実験でも使われる。
通常、モーターを溶融させるには1500℃以上の加熱が必要だが、鉄の融点を下げる加炭材や、加熱溶融を促進させる銑鉄を加えることで、1400℃でも溶融できるようにした。フラックスも溶融温度を下げる。比較的低温となる1400℃でも加熱溶融できる点は強みの1つであるという。
昨今はライフサイクル全体での環境負荷低減が求められているため、リサイクル工程として実用化する際には加熱に再生可能エネルギーによる電力を使用する他、さらに低い温度の加熱溶融でもレアアースを回収できるか検討していく。現時点では、大型の溶解炉で実証する段階であることから、開発したプロセスによるCO2排出量は算出できていないという。
開発したリサイクル技術の実用化に向けては、パートナー企業を探す他、高温炉に既存の設備を流用できるかなどの検討も進める。リサイクルのスケールメリットを追求するため、他の自動車メーカーとの協業も視野に入れる。
レアアースは、産出国の偏りや価格変動、生態系への影響、今後の需給逼迫(ひっぱく)などの課題を抱えており、使用量削減が課題となっている。レアアースの内、ジスプロシウムやテルビウムといった重希土類は中国への依存度が高い。また、足元ではレアアースの価格が微増傾向にある。さらに、カーボンニュートラルに向けて各国が取り組みを強化する中、風力発電機や電動車のモーターでネオジム磁石の需要が拡大すると見込まれている。
日産自動車では中国以外の地域からのレアアース調達や、出荷基準を満たさないモーターの磁石の再利用、重希土類の使用量削減などを進めてきた。例えば、モーターに使用する重希土類は、2020年度生産の「ノート」は2010年度生産の「リーフ」と比べて85%削減した。EV(電気自動車)の新型車「アリア」では、永久磁石を使用しない巻線界磁型モーターを採用する。しかし、重希土類は磁石の耐熱性や磁力を保つ性能の確保、モーターの小型化に有効であり、「HEV(ハイブリッド車)にはまだ必要。クルマに応じて使い分ける」(日産自動車)という。
設計や磁石の進化によってレアアースの使用量を減らすことと、レアアースの回収によるリサイクルを両輪で進めていく。
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