「生産計画」では今後のEVの生産体制が示された。メルセデス・ベンツブランドの車両生産ネットワークは最先端の生産システムである「MO360」によりEVの量産が可能な状態にある。2022年には、世界の7つの拠点で8車種のEVを生産する予定。全ての乗用車とバッテリーの生産拠点は、2022年までにカーボンニュートラルな体制に切り替えられる計画だ。また、バッテリーのモジュールやパックの組み立てを効率化するため、ドイツのGROBと協業する。さらに、大幅な増産を行う車載バッテリーのリサイクルに向けて、ドイツのクッペンハイムにリサイクル工場を新設する。操業開始は2023年を予定している。
「人員計画」は、これまでの内燃機関車の生産からEVの生産への移行をスムーズに進めるためのものだ。2020年だけでも、ドイツ国内の約2万人の従業員が電動モビリティに関するトレーニングを受けており、車載OSである「MB.OS」の開発に向けて約3000人のソフトウェアエンジニアを雇用する方針である。
「財務計画」は、メルセデス・ベンツブランドの業績が、一気にEVへシフトすることによって大きなマイナスの影響を受けないことを示すものだ。2020年の業績目標は、2025年までにハイブリッド車(HEV)とEVを合計した販売シェアを25%にするという前提で設定されていたが、今回発表したEV事業戦略では2025年までにHEVやEVなどの販売シェアを最大50%と想定しており、10年後の2030年までに新車販売の全てがEVに切り替わるという市場シナリオがベースになっている。そこで利益率を高めるためには、メルセデス・マイバッハ(Mercedes-Maybach)やメルセデスAMGのようなハイエンドEVの販売比率を高めつつ、価格や販売数量をより直接的にコントロールすることで、1台当たりの収益を増やす必要があるという。また、インフォテインメントサービスである「Mercedes me」などのデジタルサービスによる収益増加が業績を支えるとしている。
一方で、変動費や固定費、設備投資の削減にも取り組む。バッテリープラットフォームの共通化やMB.EAなどのスケーラブルなEVアーキテクチャが、バッテリー技術の進歩と連動して低コスト化をもたらすことを見込んでおり、車両内での電池コストの割合は大幅に低下すると予想している。そして、これまでの「EVファースト」から「EVオンリー」に移行することにより、内燃機関やPHEV(プラグインハイブリッド)の技術への投資は2026年に2019年比で80%減少するとしている。
ダイムラーとメルセデス・ベンツのCEOであるオラ・ケレニウス(Ola Kallenius)氏は「EVシフトは特に高級車セグメントで加速している。転換点は近づいており、今後10年間で市場が“EVオンリー”に切り替わるのに向けてわれわれは準備を整えた。そのために、今回の戦略では資本計画に大幅な変更が必要になるが、収益性の目標を維持しながら、この急速な変化に対応することで、メルセデス・ベンツの永続的な成功を保証していく」と述べている。
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