世界デジタル競争力ランキングでは、日本は世界63カ国中23位と米国、シンガポール、スウェーデンなどのトップランナーとは大きな差がある状況だ。こうした実情を背景に、河野氏はアクセンチュアが調査した「製造業オペレーションDXの現在地」について紹介した。
この調査は、製造業オペレーションDXの進捗状況を評価するもので、石油・ガス、自動車、航空宇宙・防衛産業、ハイテク、産業機器など各産業にわたり、米国133社、欧州226社、インド・中国各62社、その他アジア118社(日本の約60社を含む)の合計600社を対象に実施した。
この中で同社は「デジタル成熟度インデックス」を定義している。成熟度は完全にデジタルが展開された場合を100%としているが、現在の成熟度の平均値は39%となった。これは各社が一部のデジタル機能のPoCフェーズを終え、スケールアップフェーズに移行している段階にあることを示している。現状について河野氏は「インダストリー4.0による新たな可能性が実現されるまでには至っていない」と評価している。
この調査での業界別の特徴を見ると、デジタルソリューションが企業のパフォーマンスに大きく影響する可能性がある業界(石油・ガス、航空宇宙・防衛産業)ではデジタル成熟度が高い傾向にある。国別ではドイツ、米国をはじめフランス、イタリア、英国など、インダストリー4.0を支援する政府によるプログラムが早い段階で開始された国々では早いペースで進行している結果が出ている。
また、過去の資産が大きすぎない国や地域、業界などではDXが早く進む傾向があるという。日本は全体の11位で、成熟度は相対的に低く、その背景には過去の成功実績を持つ大規模で自動化された製造拠点の慣行が企業の大胆な変革の弊害になるケースが考えられる。
デジタル成熟度とデジタル投資額および営業利益の関係をみると、より成熟した業界では営業利益で測定した場合により高い効果がみられる。特に、この調査対象企業のうち17%にあたるバリューメーカーが、非常に成熟したオペレーションDXによって大きな価値(収益と生産性で評価)を生み出しており、ここではその状況を分析した。
製造業の取り組みの中で最も遅れているデジタル関連の機能は「製品のライフサイクル全体を通じたフィードバック」「品質問題や不適合を評価する分析方法」「デジタルワークステーション・指示・アラート・ポカヨケ」「デジタル化された動的な製造計画とスケジュール管理」「フローと在庫のデジタルトラッキング」「クライアントおよびサプライヤーとデータを共有するプラットフォーム」「製品周辺のデジタルサービス」「デジタル/IoTプラットフォーム」「設計・製造・サービスにわたるデジタル継続性/スレッド」「データ管理ガバナンス」などとなっている。
これに対してバリューメーカーでは「迅速なプロトタイピングによる開発」「AIベースの設計ツール」「スマートなプロジェクト管理ツール」「AR/VRを使用した研修」「拡張現実プラットフォームを使用した遠隔サポート」「AGVおよび協働ロボットによる倉庫の自動化」「5G対応」「データの質の成熟度」「デジタルアカデミープログラム」などのデジタル機能を先行している。ただ、「デジタルソリューションとデジタル技術にどんなにお金をかけても、適切なスキル、リーダーシップ、ガバナンスに実際的な弱点がある場合には、投資のリターンを得ることはできないということもいえる」(河野氏)とする。
こうしたことを前提に、デジタル化の対象となる製造業のバリューチェーン全体の中で「『トラディショナルな商品の価値を超える』『バーチャルツイン』『スマートサプライチェーン』という3つの壁が存在していており、これが重要なテーマとなっている」と河野氏は指摘している。
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