電源障害によるダウンタイムから考える電源システム設計電源システム解説(1/5 ページ)

この記事では、電源障害によって引き起こされるダウンタイムを取り上げ、これらの用途で用いられる機器の電源システムで、最新の保護ICを使用してダウンタイムを予防する方法について説明します。

» 2021年06月30日 06時00分 公開

 アップタイム(稼働時間)は、産業オートメーション、ビルオートメーション、モーション制御、プロセス制御などの分野で生産性と収益性を考える上での極めて重要な指標です。ダウンタイムは通常、メンテナンスや、人為ミス、機器の故障によって発生します。

 ダウンタイムに伴う修理や生産性低下がもたらすコストは、業界や事象の性質によっては非常に大きなものとなることがあります。メンテナンスや人為ミスによるダウンタイムは予防可能なものと不可能なものがありますが、機器に関連した障害はほとんどの場合、予防が可能です。

 本稿では、産業機器に加えて電動化の需要が拡大する車載システムなど向けの電源回路で起こり得る電源障害によって引き起こされるダウンタイムを取り上げ、これらの用途で用いられる機器の電源システムで、最新の保護ICを使用してダウンタイムを予防する方法について説明します。

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システムの電源保護の概要

 電源システムは、多くの電気的なストレス要因や障害にさらされます。電力経路に沿って、落雷や誘導性負荷スイッチングによる電圧サージおよび過渡、蓄電コンデンサーの初期充電による突入電流、配線ミスやワイヤハーネス内の偶発的な短絡による逆電圧、過電流や過熱によって、劣化や不可逆的な損傷が引き起こされる可能性があります。

 負荷の周囲に保護するための防御線を築き、これらの深刻な事態に対処する必要があります。以下で、幾つかの一般的な用語、電源障害のタイプ、利用可能な従来型ソリューションとその課題および最新の保護ICとその利点について説明します。

一般的な用語について

 単機能の保護を提供するものとして、ディスクリートなソリューションに加え、多くの統合ソリューションがあります。例えば、サージプロテクタ(または過電圧プロテクタ)は電圧サージからの保護を提供します。ホットスワップコントローラー(または突入電流リミッタ)は突入電流から保護することができ、OR-ingコントローラー(または理想ダイオードコントローラー)は逆電圧から保護するとともに、電源の分散化が可能になります。

 電子ヒューズ(または電流リミッタ)は短絡や過負荷から保護することができますし、電力リミッタ/負荷スイッチ/USBスイッチ/パワーセレクタは、複数の入力電源や複数の負荷を備えたシステムに管理と制御を提供します。図1は、システム電源保護の提供という共通の目的を持つ複数の製品を示しています。しかし、これらのソリューションは電圧、電流、または温度のいずれかの障害からシステムを保護するための部分的なものにすぎません。完全で包括的なシステム電源保護を提供するには、総合的なソリューションが必要です。

図1:さまざまな単機能の保護ソリューション(クリックして拡大) 出典:マキシム

システム電源保護が必要な場所

 図2は、一般的なシステム基板の配電を示しています。このボードは3つの個別入力電源から給電され、大型の蓄積コンデンサーを充電し、それ自体が使用するためのボード電力を生み出し、電力を後段の2つのペリフェラルデバイスに供給します。このシステム基板は、入力と出力の両方に複数の電源保護と配電機能を必要とします。

図2:一般的なシステム基板の配電(クリックして拡大) 出典:マキシム

 入力電源保護のためには、過電圧/低電圧、電子ヒューズ、突入電流制限および逆電圧保護が必要です。このボードに給電する電源に給電能力の制限が設けられている場合でも、電力制限機能は必要になります。

 このボードは3つの異なる電源から給電されるため、電源OR-ing(2つの信号を結合して、どちらかの信号が存在する場合に出力がオンすること)または電源マルチプレクサ(MUX)が必要です。電源OR-ingは、電圧が最も高い電源を自動的に選択してボードに給電します。一方、電源マルチプレクサは電圧が動作範囲内にある限り、電圧に関係なくどの電源を使用するかの選択をシステムに委ねます。このボードでは、高電圧の電源によって低電圧の電源が逆駆動されないように、逆電圧保護も必要です。

 一方、出力電源保護のためには、出力過負荷やコネクターにおける短絡からの電流制限保護と、より高電圧のレールに対する偶発的な短絡からの逆電圧保護を必要とします。出力の配電を管理するため、このボードは負荷スイッチ、OR-ingおよび電力制限が必要となります。

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