出力過負荷と短絡は、2つの代表的な電流障害です。出力過負荷は、システムが能力を超えて動作した時に引き起こされます。短絡についてはボード上の欠陥部品によって発生する可能性があります。誰かが誤ってレンチを電源コネクターに落とした場合や、ドリルでケーブルバンドル(複数のケーブル束ねたもの)に穴を空けた場合などには深刻な短絡が発生するでしょう。保護されていないボードは、永久的な損傷を被るか、さらにひどい場合は発火することもあります。
放電済みのコンデンサーを搭載したボードを通電中のバックプレーンに接続すると、サージ電流が急激に流れてコンデンサーを充電します。抑制しない場合、この突入電流は次の式に従います。
I=CdV/dt
(I=突入電流、C=静電容量、dV/dt=コンデンサー電圧の経時的変化率)
放電済みのコンデンサー(0V)を24Vで通電中のバックプレーンに接続した場合、dV/dtは瞬時(無限)であるため、Iも無限になります。突入電流を抑制しなければ、この限りなく大きな電流スパイクは、コネクターの損傷、ヒューズの溶断、バックプレーン電圧におけるリンギング電圧を引き起こす可能性があります。
逆電圧が発生すると、逆方向の電流の流れがシステムに重大な損傷をもたらす場合もあります。図6は突入電流/短絡と逆方向電流を示しています。
正しく設計されていれば、システムは温度障害を一度も起こさずに動作することができるはずです。しかし、一次障害の状態(過負荷状態の継続、システムファンの障害や能力低下、システム通気口の偶発的な閉塞、部屋のエアコンの障害など)が生じると、温度障害が引き起こされる場合があります。
損傷や潜在的な火災関連の問題を予防するため、過熱保護では、システムの温度やシステムの他の部品の1つが危険なレベルに達すると、システムをシャットダウンします。過熱によるシャットダウンと比較すると、サーマル保護はよりスマートな保護手段を提供します。システムの動作中にいずれかの一次障害のために温度が正常値を上回ると、サーマル保護はシステムに警報を発して選択肢を提供します。例えば、システムは重要性の低い負荷を切り捨て、より低いスイッチング速度で動作して消費電力を抑制することができます。その結果、システムはその主要な障害が解決するまでシステム性能を低下させることで、過熱シャットダウンを回避できる可能性があります。
あらゆる電気システムで電圧、電流および温度障害は発生するため、保護を軽視すると、設計検証試験の段階でシステム設計を完成させることができなくなる可能性があります。現実問題として、工場の現場におけるラインダウンという、さらに深刻な事態も想定されます。機器の損傷を引き起こす障害から包括的に保護するための保護回路は、システムのアップタイムを最大限に延長する上で重要な存在です。
製品を完全に保護したいと考えるシステムエンジニアは、幾つかの設計上の課題に直面します。ディスクリート実装や部分的なIC実装では多くの外付け部品を必要とします。図7は、40個のディスクリート部品を使用した完全なシステム電源保護ソリューションを示しています。全部品の許容誤差を積算して分析するのは非常に手間がかかる上、経時的に性能を検証し保証することも困難です。システムの精度と、障害に対する高速応答を共に達成することは容易ではありません。多数の部品を使用すれば、最終的なソリューションは大型になります。システムの平均故障間隔(MTBF)が短くなるため、所有コストは増大します。
ディスクリート回路や部分的なICによって保護を実装する従来の手法は、以前はうまく機能したかもしれませんが、最新のシステムに対しては有効ではありません。最新のシステムでは、基板スペースは縮小し、開発期間は短縮され、開発予算にはほとんど余裕がありません。こうした変化を踏まえると、最新のシステムに最適な保護ソリューションはどのようなものでしょうか。
そのソリューションは、電界効果トランジスタ(FET)、電流検出/制限、電力制限、サーマル保護および低電圧/過電圧保護を内蔵した高集積保護ICです(図8参照)。さらに、UL/IEC(Underwriters Laboratories Inc/International Electrotechnical Commission)の安全性要件に適合する完全集積化保護ICであればさらに良いでしょう。高集積度と安全性認証の組み合わせによって、最新のシステムに対する信頼性の高い保護が実現します。
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