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» 2021年06月24日 10時00分 公開

デライトデザインの先行事例としての“音のデザイン”デライトデザイン入門(4)(2/3 ページ)

[大富浩一、山崎美稀、福江高志、井上全人/日本機械学会 設計研究会,MONOist]

音の性質と音質指標

 ここまで「騒音レベル」という言葉を説明なしに使用してきた。そこで、騒音レベルの定義を含め、音の性質と音質指標について取り上げる。

 音は、人間の五感の1つ“聴覚”に相当する。人の五感を数値化する際には「ウェーバー・フェヒナーの法則」(参考文献[5])が重要なヒントを与えてくれる。すなわち、人は外部からの刺激に対して線形に感じるのではなく、刺激が大きくなれなるほど鈍く感じ、刺激を線形ではなく対数表示するとちょうどいい、ということを示している。これは、カレー粉を10倍入れたからといって、10倍辛いわけではないことからも分かる。音も同様で、物理上の単位としては「Pa(パスカル)」が用いられるが、通常、音圧レベル(SPL:Sound Pressure Level)は、

式1 式1

で定義される。

 Prmsは音圧の実効値、Poは基準の音圧のことで、Po=2×10−5[Pa]である。さらに、音の感じ方(聴覚)には周波数特性がある。音の大きさが同じに聞こえる音圧レベル(ラウドネス)を結んだ曲線を「等ラウドネスレベル曲線」と呼ぶ(参考文献[6])。

 音の大きさを表す単位の1つが「phon」で“ラウドネスレベル”と呼ばれる。ラウドネスレベルは、1kHz純音の音圧レベルで表現される。音圧レベル40dBの1kHz純音と同じ大きさに聞こえる音は、周波数が何Hzであっても、ラウドネスレベルは40phonと表現する。

 ただし、ラウドネスレベル(phon)は順序尺度であり、40phonの2倍の大きさが80phonというわけではなく、80phonの方が40phonよりラウドネスが大きいということだけを意味している。また、周波数特性(40phonの等ラウドネスレベル曲線)を考慮した音圧レベルは騒音レベル(A特性)で「dBA」と表記される。騒音計で測定されるのはこの値である。

 一方、比例尺度で表される音の大きさは“ラウドネス”と呼ばれ、単位は「sone」を使用する。1soneは、音圧レベル40dBの1kHz純音の大きさで定義される。比例順序なので、2soneの2倍の大きさは4soneとなる。ラウドネスは騒音レベルとは異なり、音の大きさによる等ラウドネスレベル曲線の違いなどの考慮がなされている。なお、ラウドネスは後述する音質指標の1つである。図4に以上述べた音圧、音圧レベル、等ラウドネスレベル曲線、ラウドネスの関係を示す(参考文献[7])。

音圧、音圧レベル、等ラウドネスレベル曲線、ラウドネスの関係 図4 音圧、音圧レベル、等ラウドネスレベル曲線、ラウドネスの関係 [クリックで拡大]

 次に、音質指標について説明する。音質指標は、音を聞いたときの感じ方を比例尺度指標化するものである。音の感じ方には「大きい/小さい」「甲高い/鈍い」「ざらざらしている/滑らか」「変動している/一定」の4つがあるといわれている。そこで音響心理学の知見により定義されたのが、以下の4つの音響指標である(詳細な定義方法については参考文献[8]を参照のこと)。

  • ラウドネス(loudness):
     人が感じる音の大きさを評価する指標で、単位は[sone]
  • シャープネス(sharpness):
     音の甲高さ、鋭さの評価指標で、単位は[acum]
  • ラフネス(roughness):
     ざらつき感や粗さ感を評価する指標で、単位は[asper]
  • 変動強度(fluctuation strength):
     音の変動感を評価する指標で、単位は[vace]

 いずれも人を介した評価により導出された比例尺度指標で、製品音の音源信号(時刻歴)を信号処理することにより機械的に求めることができる。

参考文献:

[5]ウェーバー・フェヒナーの法則|人間の五感を数値化、空間情報クラブ、インフォマティクス
[6]等ラウドネスレベル曲線:ISO 226:2003 Normal equal-loudness-level contours
[7]日本音響学会編、音響キーワードブック、2016
[8]Hugo Fastl、Eberhard Zwicker、Psycho-Acoustics Facts and Models、3rd edition、Springer、2007年


音のデザインの方法

 音のデザインの方法について、クリーナーへの適用例(参考文献[9])を通して説明する。図5に音のデザインの手順を示す。

音のデザインの手順 図5 音のデザインの手順 [クリックで拡大]

 最初にインタビューなどにより顧客ニーズの抽出を行う。次に「音のものさし」を作成する。音のものさしの作成に当たっては、

  1. 音質指標を用いて製品が発する音を指標化する
  2. 音に対する人の感じ方をSD法(第3回で説明)により抽出する

が基本データとなる。音のものさし上に目標音を設定(目標が可視化されることにより、開発に携わる技術者全員が目標を共有)し、目標音を製品開発プロセスの中で実現する。

 音のものさしの導出手順を図6に示す。

音のものさしの導出手順 図6 音のものさしの導出手順 [クリックで拡大]

 複数の被験者にクリーナーの音を10種類聞いてもらい、その印象を7尺度のSD法(形容詞25対)で評価してもらった。評価データは、クリーナーの音ごとかつ形容詞対ごとに全員の平均値を算出。さらに、主成分分析を実施し、主成分1を官能指標(人の感じ方の指標:ここでは「心地よさ」)とした。一方、10種類のクリーナー音(クリーナー音は無響室にてJIS準拠で測定)を信号処理して、4種類の音質指標を算出。さらに、主成分分析を実施し、主成分1を物理指標1、主成分2を物理指標2とした。最後に、官能指標を目的変数、物理指標1、物理指標2を説明変数として重回帰分析を行い、官能指標と物理指標の関係を求める。

 図7に、図6の手順で求めた音のものさしを示す。物理指標1はマイナス側に行くほど“静か”であることを、物理指標2は右側に行くほど“変動感”があることを意味するので、人は静かであると同時に変動感のある音を心地よいと感じていることが分かる。

音のものさしと製品開発履歴 図7 音のものさしと製品開発履歴 [クリックで拡大]

 変動感は、“クリーナーらしさ”を表現しているものと考えられる。図7には対象とした10種類のクリーナー音をプロットしてある。このうち、HDCが同一企業におけるクリーナー音の履歴を示している。この結果も受け、目標音(製品は存在しないが音は現状製品音をベースに作成可能)を設定。これを実現すべく製品開発プロセスの中で音を作り込んでいった。

 試作品の段階で初めてリアルな音を聞くことができた。この段階で既に目標を達成していたが、若干の音の調整を行って最終製品を作り上げた。結果的に、音実現のために従来とは全く異なる音設計となったが、製品開発と一体で実施したため、これに伴うコスト増はなく、図7に示したような画期的な音質を実現できた。

参考文献:

[9] 大富、穂坂、岩田、製品音おデザイン、東芝レビュー Vol.62 No.9 2007


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