規制改革と海外企業参入で活性化する米国医療AI市場海外医療技術トレンド(71)(3/3 ページ)

» 2021年05月14日 10時00分 公開
[笹原英司MONOist]
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米国発欧州市場参入を実現したイスラエルの医療AI企業事例

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)緊急対応下においても、FDAは、本連載第39回で取り上げたDe Novo分類申請や、第67回で取り上げた画期的機器(Breakthrough Devices)プログラム、STeP(医療機器向けのより安全な技術プログラム)など、さまざまな医療機器イノベーション推進策を展開しており、海外のMedtech/Healthtech企業も積極的に参入している。

 例えば、イスラエル・ネタニヤのCLEWメディカルは、2020年6月16日、同社のAIベースの医療機関向け予測診断情報ソリューション「CLEWICU」に関連して、FDAから緊急使用許可(EUA:Emergency Use Authorization)を取得したことを発表した(関連情報、PDF)。

 CLEWICUは、AIベースのアルゴリズムを利用して、COVID-19に共通の合併症である呼吸不全や血行動態不安定性を事前に予測する機械学習モデルにより、追加的な評価や潜在的に早期の介入、計画、リソースの管理を可能にするソリューションである。このAIモデルは、集中治療室(ICU)の10万人近くの患者で学習されたものであり、患者数の急増に対処するためにスケーリングしながら、介護者が感染した患者に暴露するリスクを低減する。また、悪化する可能性の低い低リスクの患者を特定して、ICUのリソース管理と最適化の改善を可能にするとしている。

 CLEWICUは、「ClewICUServer」と「ClewICUnitor」から構成されており、電子健康記録(EHR)や医療機器データなど、さまざまなソースからの患者データを収集し、患者のリスクレベルを継続的にモニタリングしながら、AIベースのアルゴリズムと機械学習モデルを利用した解析ソフトウェア機能をほぼリアルタイムで実行する。そして、患者の将来的な血行動態不安定性の確率に関する生理学的知見を臨床医に提供し、迅速で予防的な患者ケアのために早期評価とそれに続く介入を可能にするとしている。

 その後2021年2月3日、CLEWメディカルはCLEWICUに関連して、FDAが、クラスIIの医療機器(分類名:Adjunctive Predictive Cardiovascular Indicator)として承認したことを発表した(関連情報、PDF)。

 さらに同年3月9日、CLEWメディカルは、欧州医療機器指令(MDD)に基づくCEマーキング向けに、AI強化型ICU臨床管理支援ソリューションとしてCLEWICUを登録したことを発表している(関連情報)。本連載第69回で概説したように、欧州連合(EU)では、2021年5月の医療機器規則(MDR)適用開始を控えている。欧米規制当局間の調整活動が本格化する中で、双方の承認を受けたAI医療機器のユースケースが、今後のレギュラトリーサイエンスに果たす役割は大きい。

米国FDAのイノベーション推進政策を活用する海外の医療AI企業

 一方、イスラエル・テルアビブのMemicイノベーティブ・サージェリーは、2021年3月1日、同社の腟式子宮摘出術向けロボット支援手術機器(RASD)である「Hominis Surgical System」に関連して、FDAより「De Novo分類申請」の承認を受けたことを発表した(関連情報)。De Novo申請制度は、21世紀医療法や改正連邦食品医薬品化粧品法(FD&C Act)に基づき、リスクが軽度から中程度(クラスIからクラスII)の新しい医療機器で、比較対象となる同等の機器が存在しない場合に選択できる審査方法である。

 Hominis Surgical Systemは、De Novo申請制度により初めて承認されたロボット支援手術機器である。Hominisは、ヒューマノイド型ロボットアームを搭載したロボット支援手術プラットフォームであり、Memicは、AIを利用してあらゆる手術への適応を支援する機能を開発中であるとしている。

 内視鏡検査の領域では、アイルランド・ダブリンのCosmoアーティフィシャル・インテリジェンスが、2021年4月9日、同社のAI/MLを利用した結腸がん診断向けインテリジェント内視鏡検査システム「GI Genius」に関連して、FDAより、「De Novo分類申請」の承認を受けたことを発表した(関連情報)。

 GI Geniusは、機器が潜在的な病変を検知する結腸部分を目立たせるために設計されたハードウェアとソフトウェアから構成される。ソフトウェアは、人工知能アルゴリズム技術を利用して、関心のある領域を特定する。結腸内視鏡検査中、GI Geniusのシステムは、短い低音量を伴う緑色の正方形のようなマーカーを生成し、潜在的な病変を検知すると、内視鏡カメラからのビデオ上に重ね合わせる。このようなサインが臨床医に送信され、綿密な目視検査、組織の採取または検査や除去、病変の切除など、さらなる評価が必要になる場合がある。GI Geniusは、FDAの承認を受けた内視鏡ビデオシステムの多くと互換性を保つように設計されているという。

 医用画像の領域では、カナダ・トロントのPerimeterメディカル・イメージングAIが、2021年4月15日、同社のImgAssist AIを搭載した光干渉断層撮影(OCT)画像システムに関連して、FDAより画期的機器(Breakthrough Devices)に指定されたことを発表した(関連情報)。

 Perimeterは、超高解像度かつリアルタイムの先進的医用画像ツールで、高いアンメット・メディカル・ニーズ(治療法が見つかっていない疾患に対する医療ニーズ)に取り組むことによって、がん手術を変革することを目標としている。テキサスがん予防・研究所(CPRIT)より総額7400万米ドル(約81億円)の資金援助を受けたATLAS AIプロジェクトの臨床開発を通じて、独自仕様の次世代AI技術や機械学習ツールの開発を進めているという。

 本連載第67回で、FDAの医療機器イノベーション推進政策を取り上げたが、医療AIについてみると、新製品のコマーシャライゼーション実現の場として米国市場を利用する海外スタートアップ企業が出現していることが分かる。しかも、FDAが承認した新製品は、ハードウェアとソフトウェアを組み合わせた「IT/OTコンバージェンス」や「デジタルツイン」「エッジコンピューティング」の方向性にあるものばかりだ。

実はハードウェア視点が重要なAI/ML×SaMD

 とはいえ、米国FDAにおいても、AI/MLベースのSaMDに関わる規制実務は始まったばかりだ。2021年1月18日、スイス・チューリッヒ大学の研究チームがLancet Digital Health誌で発表した「米国と欧州における人工知能と機械学習に基づく医療機器の承認(2015-20):比較分析」(関連情報)では、AI/MLベース医療機器の公的な信頼性や有効性、安全性、品質を実現し、改善するために、機器を規制し、承認する方法に関する一層の透明性を提言している。また、前回取り上げた欧州の「EU4Healthプログラム」においても、AIは医療機器に関わる優先事項の1つとなっており、欧米間のハーモナイゼーションに向けた取り組みが必要とされる。

 これに対して、日本の厚生労働省は、2020年11月24日、「プログラム等の最先端医療機器の審査抜本改革(DASH for SaMD)」(関連情報、PDF)を公表し、医薬品医療機器総合機構(PMDA)が「SaMD一元的相談窓口」(関連情報)を開設した段階である。残念ながら、日本の規制当局は、AI/ML×SaMDに不可欠なハードウェア連携に関する部分が追い付いていない。この部分は、今回紹介したイスラエルやアイルランド、カナダのMedtech企業に共通の強みとなっているだけに、今後の規制動向が注目される。

筆者プロフィール

笹原英司(ささはら えいじ)(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)

宮崎県出身。千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所、グロバルヘルスイニシャチブ(GHI)等でビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。

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