Frost & Sullivanの調査によると、開発プロジェクトが最初の試みで成功する可能性は30%以下である。これは、ソフトウェアを収益化させるプロジェクトにとっては危険な水準であるとしている。
中小企業においては、自社開発でシステムを構築することが最終的に合理的な場合がある。年間の販売数が500本以下(週に10本以下)、または売上高が300万米ドル(約3億2000万円)以下で、ライセンス要件が非常に単純な場合(例:機能別ライセンスやフローティングライセンスが不要で、ソフトウェア製の永久ライセンスの有効/無効を単純に判定する程度)に見られる。このようなケースでは、事業規模が拡大するまでの間、一時的に自社開発のソリューションを使用することは理にかなっているといえるだろう。
しかし、ライセンシングの要件にサブスクリプションが追加となるケースや、機能別ライセンスでオプション機能を販売する場合などは、商用ソリューションに切り替えることで、実質的にコスト削減可能なことが分かる。
例えば、自社開発のシステムでは、バグ修正やシステム容量の拡張、新製品のリリースや新バージョンへの対応、最新のオペレーティングシステムのバージョンやパッチを考慮した必要なシステムの更新、サーバの稼働維持など、通常年間2〜3人月を日常的なメンテナンスに費やしている。
テクニカルサポートのようなエンドユーザーへの日常的な業務も重要であり、通常1時間当たりにかかるコストはおよそ140米ドル(約1万5000円)程度と考えられている。しかし、自社開発のシステムの方が商用のソリューションを利用した場合に比べて、総顧客数に対する平均コール数の割合が高くなる傾向があることも考慮しなくてはならない。
初期導入後は、収益化システムの機能の大幅なアップグレードにより、ビジネスの効率性を高め、システムから得られるROI(投資利益率)を最大化するための拡張を施すことになるだろう。機能強化に費やすコストは、当初の構築コストの10〜20%になるのが一般的だ。しかし、多くの場合、そうした付加価値のある機能のアップデートは、先のフェーズに見送る傾向がある。社内の開発チームに収益化の専門知識が不足している場合や、開発リソースが不足している場合は、さらに先送りとなる場合がほとんどだ。
そして、自社開発のシステムを導入している企業の多くは、2〜4年ごとに現在のシステムでは物足りなくなり、顧客のユースケースや新しいビジネスニーズをサポートするために、システムの全面的な見直しを迫られると報告されている。これに適切に対応するには、少なくとも先行投資と同等のコストがかかるのが一般的だ。必要なコストは、最初に導入したシステムが企業にとってどれだけ将来性と先見性があり、ドキュメント化されていたか(あるいはされていなかったか)によって大きく異なってくるだろう。
近年、世界のシンクタンクやリサーチャーが示唆する通り、欧米諸国では収益化システムを自社構築するケースは極端に少なくなってきている。ソフトウェアの収益化に関する問題で、表面化している問題は全体の40%程度であって、残りは潜在的な問題として収益機会を失っていたり、知らず知らずのうちにコストがかかっていたりするのだ。収益化ソリューションがもたらす効果は慎重に見極めていく必要がある。
こうした収益化に関するレポートの数値を基準に自社のケースに置き換えて、計画を立てて適切なKPI(重要業績評価指標)を設計することは、ソフトウェアによる新しいビジネスを推し進めていく上で、将来的な製造業のソフトウェアビジネスの基準となるのではないだろうか。
前田 利幸(まえだ としゆき) タレスDIS CPLジャパン株式会社(日本セーフネット株式会社/ジェムアルト株式会社)ソフトウェアマネタイゼーション事業本部 シニアアプリセールスコンサルタント ビジネス開発部 部長
ソフトウェアビジネスに取り組む企業に対して、マネタイズを実現するためのコンサルティングやトレーニング、ソリューション提案を実施。全国各地で収益化に関するセミナーや講演活動を展開。IoT関連企業でシニアコンサルタントを経て現職。同志社大学 経営学修士(MBA)。二児の父。
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