多くの文献で、疲労破壊に関しては“十分に注意する必要がある”と論じられています。筆者もその考えに同感ですが、次のような理由から少しだけ楽観的に捉えています。例えば、1つの部品を固定するために、4本のボルトが使われているとします。このとき、一般の部品よりもボルトの方が4倍も疲労破壊が起こりやすいといえるでしょうか。そんなことはありません。ボルトが適切なトルクで締め付けられていることを前提としますが、ボルトは疲労に対して案外タフなのです。
ここで、締め付けトルクを決める際のボルトが持つ“強度の分配”を考えてみましょう。図3のような分配が考えられます。ボルトの持つ強度をいろいろな荷重に分配することになり、締め付けトルクに使える分が少なくなってしまいました。この結果、ボルトの締め付けトルクを小さくせざるを得なくなり、締結力不足となってしまいます。
実は、簡単なCAE解析をすれば分かることですが、そもそも図3のような分配をする必要はなく、図4のような分配で繰り返し荷重に十分耐えられる設計ができるのです。
被締結体に繰り返し荷重が作用するときの、ボルトに発生する繰り返し応力を論じる際、図5のようなモデルを使います。締め付けられたボルトには引張応力が発生しているため、これに繰り返し荷重が重畳するように思われがちですが、実は重畳するわけではなく、ボルトに作用する引張応力はあまり変動しません。むしろ、図5の繰り返し荷重に対する疲労強度は、ボルトを適正に締め付けたときの方が、適正に締め付けていないときよりも大きくなります。この点については、今後の連載の中で詳しく説明したいと思います。
ボルトの呼び径と本数を決定するには、前述した要件を満たす必要がありますが、多くの文献で使われている図5のようなモデルで十分なのでしょうか。
1つの部品を固定するのに、4本のボルトが使われているとしましょう。このとき4本のボルトに対して、均等に繰り返し荷重が作用するでしょうか。違いますよね。荷重の作用点やボルトの位置によって、それぞれのボルトに異なった荷重が作用します。この課題の解決にCAEを使います。
次回以降、設計者CAEの範ちゅう、つまり接触要素を使わず、かつ単品解析でこの問題の解を導き、不足なく過剰ではないボルトの適切な呼び径と本数の決め方について詳しく解説していきます。
次回は「ボルトの疲労強度」について取り上げる予定です。ご期待ください! (次回に続く)
高橋 良一(たかはし りょういち)
RTデザインラボ 代表
1961年生まれ。技術士(機械部門)、計算力学技術者 上級アナリスト、米MIT Francis Bitter Magnet Laboratory 元研究員。
構造・熱流体系のCAE専門家と機械設計者の両面を持つエンジニア。約40年間、大手電機メーカーにて医用画像診断装置(MRI装置)の電磁振動・騒音の解析、測定、低減設計、二次電池製造ラインの静音化、液晶パネル製造装置の設計、CTスキャナー用X線発生管の設計、超音波溶接機の振動解析と疲労寿命予測、超電導磁石の電磁振動に対する疲労強度評価、メカトロニクス機器の数値シミュレーションの実用化などに従事。現在RTデザインラボにて、受託CAE解析、設計者解析の導入コンサルティングを手掛けている。⇒ RTデザインラボ
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