AIの社会的影響力が高まる中で、AIそれ自体の品質保証の重要が高まっている。品質保証を実現する上で重要になる考えとは何か。
AI(人工知能)に対する人々の注目度の高まりを背景に、企業のAI開発スピードも加速している。今回はそんなAIに関する開発の最新トレンドについて、ベリサーブが主催した“DX(デジタルトランスフォーメーション)時代に求められるソフトウェア品質”をテーマにしたオンラインカンファレンス「ベリサーブ アカデミック イニシアティブ2020」の講演を幾つか抜粋してお届けする。
本題に入る前に、国内におけるAIブームの流れをざっとさらっておく。今でこそある程度地に足がついた形になりつつあるが、数年前まで「AI」はバズワードとして言葉だけが先行して広まっていた。「AIが仕事を奪う」「AIは何でもできる」「人の能力を簡単に凌駕(りょうが)してしまう」といったオーバーな脅威論もあった。しかし、現在ではガートナーの発表したハイプ曲線でAIが“幻滅期”に分類されたことに象徴されるように、AIに対する期待感や不安感も一定程度落ち着きを見せている。
ただ、ベリサーブ 品質保証部 技術フェローの佐々木方規氏は、「このようにAIへの期待や不安が高まる現在は、2000年代に入ってから続く『第3次AIブーム』の渦中にある。過去の第1次、第2次のブームを鑑みると、AIに対する社会の受け入れ体制を整えなければブームはまた終焉を迎えてしまうだろう」と指摘した。
「第1次、第2次ブームが終焉を迎えたのは、AIが定理証明など簡単なものしかできなかったこと、また、AI単独ではタスクをこなせず人間が介入しなければならなかったことなどが要因としてある。また、“AIでしか実現できない価値”を社会に提供できなかったというのも大きい」(佐々木氏)
このため佐々木氏は、第3次ブームでは「社会に受け入れられるAIづくり」がAI開発のポイントになると語る。それには、社会全体がAIに対して理解を深めていくことが大事だ。ただ、AIや、AIを実装するデバイスなどモノづくりに携わる開発者が取り組むべき事柄もある。AIが社会的に受け入れられるようにするための、品質保証の取り組みである。
通常のソフトウェアは与えたインプットに対して、どのようなアウトプットを返すかをある程度想定できる。というよりむしろ、想定通りのアウトプットが出てくるようにソフトウェアは設計される。しかし、AIとなると話は別だ。「AIはブラックボックスである」とよく耳にするが、それはAIへのインプットが、学習状況によっては全く想定しないアウトプットを生み出し得るからである。
さらに、AIに高度な機能を持たせれば持たせるほど、AI自体もより複雑化していくことになる。アウトプットの幅が広いと品質保証の定義も難しくなるため、AIソフトウェアが社会に提供する価値(=AIの品質)を保証することがより難しくなる。
そこで求められるのが「QA4AI(Quality Assurance for Artificial-Intelligence-based products and services:AIプロダクト品質保証)」という、AIプロダクトの品質保証に関わる考え方である。大まかに言えば、QA(品質保証技術)をいかにAIプロダクトに適用するかを論じるものである。2019年5月には、AI技術を活用した製品の品質保証に関する調査や体系化、適用支援、応用、研究開発を推進するQA4AIコンソーシアムが「AIプロダクト品質保証ガイドライン 2019.05版」を策定した。当時の発表については、MONOistでも報じている。
QA4AIにおける手法の1つとして注目されるのが、「AI4QA(Artificial-Intelligence for Quality Assurance:品質保証のためのAI)」だ。AI4QAは「AIの開発にAI技術をどのように適用して品質を改善するか」を問題にする。品質保証をAI技術で実現する、品質保証精度向上のためにAIを活用するという考え方だと言い換えても差し支えない。実際に、品質保証のためのテスト自動化や、コードに対する評価のサジェストを行うなど、AIを活用したさまざまなツールが登場している。
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