ザイリンクスがオンラインで会見を開き事業方針を説明。2021年末にはAMDにいる買収が完了する予定だが、従来と変わらず適応型(アダプティブ)演算プラットフォームを推進する事業方針を堅持していくという。
ザイリンクス(Xilinx)は2021年1月28日、オンラインで会見を開き事業方針を説明した。2020年8月に日本法人のカントリーマネージャーに就任した林田裕氏は「変化が加速する時代の中では、イノベーションのスピードに対応できる適応型(アダプティブ)演算プラットフォームが求められる。当社の適応性に優れたハードウェアアーキテクチャを今後もさまざまな産業に展開していく」と述べ、従来と変わらない事業方針を堅持することを示した。
1984年設立のザイリンクスはFPGAの大手ベンダーとして知られており、売上高31億6000万米ドル(約3300億円)、従業員数約5000人、顧客数6万以上の規模まで成長している。製品ラインアップとしては、FPGAの他にハードウェアプロセッサコアをFPGAファブリックと融合した「Zynq」や「MPSoC」、「RFSoC」などを2011年から展開し、2018年には最新製品となるACAP(Adaptive Compute Acceleration Platform)を投入することで、より適応性に優れたハードウェアアーキテクチャを推進している。また、製品提供形態も、IC単体や評価ボード、開発キットにとどまらず、サーバなどに組み込むアクセラレータカード形態の「Alveo」や、クラウド経由でFPGAのコンピューティングパワーを活用できる「FaaS」も用意するようになっている。
同社の適応型演算プラットフォームはイノベーションを進める上での3つの課題を解決できるという。これら3つの課題とは「データの爆発的増加」「AI時代の到来」「『ムーアの法則』後のコンピューティング」である。
中でも「AI時代の到来」については「今後需要が高まるであろう推論の市場に注力していきたい。AIの推論で用いられられるさまざまなアルゴリズムについて、ザイリンクス製品がアプリケーション全体を大幅に高速化できるメリットを訴求していく」(林田氏)という。
またインフラの拡充が進む5Gの基地局向けでは、O-RANによるオープン化や仮想化という市場トレンドに対応した製品によってニーズに応えていく。スバルの「アイサイトX」やコンチネンタルの「4Dイメージングレーダー」などで採用を広げている車載向けでは、再構成可能なFPGAの特性を生かして1つのユニットで場面ごとに機能を入れ替える「DFX(Dynamic Function eXchange)」や、将来なADAS(先進安全支援システム)系ECUの統合に向けたドメインコントローラーへの採用を提案していく。
ザイリンクスと言えば2020年10月に発表されたAMDによる買収がどのように進展しているかが気にかかるところだ。林田氏は「現在は両社の株主や各国政府などのさまざまな承認プロセスを進めているところで、2021年末の買収完了予定に変更はない。AMD CEOのリサ・スー氏がコメントした通り、今回の買収は互いにとって補完的な(Complementary)なものであるということをご承知おきいただきたい」と説明するにとどめた。
この“補完的”という言葉と、前職で日本AMDの代表取締役を務めていた林田氏がこれまでもザイリンクスが事業方針と示してきた適応型演算プラットフォームの推進について発表した事実を考えると、買収後もザイリンクスの事業方針が大きく変わることはなさそうだ。
会見では、ザイリンクスのパートナーであるOKIアイディエス 社長の清水智氏と、産学連携でFPGA関連技術の普及を推進するアダプティブコンピューティング研究推進体(ACRi)の代表を務める、東京工業大学 情報理工学院 准教授の吉瀬謙二氏が登壇した。
清水氏は「2008年からザイリンクスとの関係を深める中で、2013年からはXilinx Alliance Program Premier Memberとなった。現在は年間で150件ほどザイリンクス製品ベースの設計開発を受託している」と語る。近年の開発実績では、トヨタ自動車のコンセプトカー「LQ」のAIエージェント「YUI」向けのカスタムボードや、親会社であるOKIの俯瞰映像システム「フライングビュー」などがある。また、「OKIグループはAIエッジに注力する方針であり、そこにザイリンクス製品を活用していきたい」(清水氏)という。
ACRiでは2020年8月に、FPGAの利用環境と学習機会を無償で提供する「ACRiルーム」を開設した。ACRiルームは、105台のFPGAボード(「Arty A7-35T」×100、Alveo×5)を用いて15台のFPGAサーバを提供しており、リモートでFPGAを用いた開発が行える。「オンライン英会話で予約してレッスンを受けるように、簡単に使えるインタフェースを用意した」(吉瀬氏)。
2020年7月のプレオープンから順調に登録者数が増えており、東京工業大学と東海大学の講義にも活用されているという。
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