製造現場の柔軟性を生み出す「アダプティブマシン」、その4つの価値とは製造現場 先進技術解説(1/3 ページ)

COVID-19を含め製造現場にさらなる柔軟性が求められる中、注目を集めているのが「アダプティブマシン」である。アダプティブマシンとはどういうもので、どういう価値を持つのかという点についてを紹介する。

» 2020年11月25日 13時00分 公開

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大などの影響も含め、製造現場ではさまざまな課題が日々生み出されています。変化の度合いや内容などが異なるさまざまな問題に対し、従来の固定化された製造装置では対応の難しい場面が増えてきています。そこで、こうしたさまざまな問題に「適応」するマシン(製造装置)が製造現場では求められるようになってきました。本稿ではこうした“変化する環境に適応可能なマシン”である「アダプティブマシン」とはどういうもので、どういう価値を持つのかという点について、紹介します。

製造現場を取り巻く新たな変化

 製造現場を取り巻く新たな課題として代表的なものは以下の4つが挙げられます。

  • 製品種類の急増とバッチサイズ(ロットサイズ)の少量化
  • 製品ライフサイクルの短期化
  • オンラインストアなどeコマースによる予測困難な需要変動
  • マスカスタマイゼーション(スモールマス)製品の台頭

 これら新たな課題が生まれた背景として、従来に比べ消費者側が新しいテクノロジーを使い、簡単かつ多面的に一次情報へアクセスすることができるようになったことが挙げられます。これにより、製品を購入するに至る「認知」「比較・検討」「購入」のプロセスに変化が生じているためです。

 現代の消費者は、テレビや雑誌などの一方向的で発行までにタイムラグがある情報媒体からだけではなく、スマートフォンやタブレット端末などを経由し、インターネットによりリアルタイムにそれぞれの興味対象情報へアクセスします。そこで得た情報を双方向コミュニケーションによって他者またはグループと共有し、場所や時間の制約を受けずに、自由に好みの製品やソリューションを購入する傾向にあります。その結果、消費者の立場で考えると、購入プロセスにおける快適さと選択の自由を手に入れることになりました。

 しかし、こうした消費者側の購入プロセスの変化に対して、対象製品を製造する製造現場やマシン側へ視点を変えると、多くのマシンは依然として厳密に事前計画され、プロセスに沿った製品を中心的に製造するように設計されています。そのため、需要側と供給側のミスマッチが起きつつあり、各所で弊害が生じています。

 1つの例として「需要が急速に変動する場合」を挙げたいと思います。著名人やインフルエンサーからの情報発信が起点となり、ある製品への注文が殺到し品薄状態になることは最近よく起こることです。また、一般企業においても、ある老舗しょうゆメーカーの何気ないツイートが話題となりしょうゆが完売するようなことも起きています。これは消費者側・需要側の急速な変化に、メーカー側・供給側が対応できないために起こるものです。

 もう1つの例として「カスタム製品への対応」を挙げます。カスタマイズ(パーソナライズ)可能な消費財の人気が急速に高まっています(例えば、スニーカー、スムージー、お菓子、シリアル、シャンプー、香水など、自分の名前でラベリング包装された製品)。また、これらは断続的で小さいバッチサイズのオーダーになりますが、こうした需要に対してマシン側が「適応」できず、型替えに時間が必要で、結果的にコスト高になったり、非常に時間がかかったりする状況が生まれていました。

COVID-19がもたらした製造業の変化

 さらに、このような問題を浮き彫りにし、対応を加速させる大きなきっかけとなったのが、今回のCOVID-19の感染拡大です。

 その一例として、米国3大ネットワークの1つである、NBCニュースで取り上げられた以下の動画を紹介したいと思います。これは筆者の所属するB&Rの顧客である米国のマシンメーカーR.A Jonesが、COVID-19の影響について話したものです。

NBC Interviews R.A JONES(クリックで再生)出典:NBC

 以下にインタビューの一部を引用します。

インタビュアー パンデミックはこのサプライチェーン全体にどのような影響を与えたのでしょうか?

R.A Jones サプライチェーンが直面している課題の1つは、消費者側からの需要の変化です。包装機械を使用している当社の顧客の多くは、複数のタイプの製品を生産していますが、その中にはレストラン向けのものもあれば、業務用のものもありますし、消費者向けのものもあります。パンデミックは顧客の需要サイクルを変化させ、職場やレストラン、旅行中に製品を使用する消費者よりも、自宅でより多くの製品を使用する消費者に製品を提供しています。需要は、業務用と比較して、消費者ベースの家庭用に押されています。そのため、パッケージのサイズが変わり、出荷が変わり、供給がレストランからスーパーへとシフトしています。需要の変化に合わせて在庫や配送の物流を素早く変更しなければならないため、サプライチェーンにストレスが加わっています。

 製造業として、関わる領域が広ければ広いほど、今回のCOVID-19は大きな影響をもたらすといえるでしょう。その中でいかに柔軟に変化に対応していけるかが重要であることが伺えます。

 このような問題を解決するソリューションとして、欧州および米国で導入が加速しているのが、「アダプティブマシン」です。アダプティブマシンは、多様化する市場ニーズやデジタル世代の消費に適応し、急速な需要変動やパーソナライズ製品、小バッチサイズの生産にも柔軟に適応するマシンを意味します。B&Rが生み出した概念ですが、この考え方自体は多くの製造現場に求められるアプローチだと考えます。

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