日本HP主催の「HP デジタルマニュファクチャリング サミット 2020」のスペシャルパネルディスカッションにおいて、日産自動車の南部俊和氏とSOLIZE Productsの田中瑞樹氏が登壇。アディティブマニュファクチャリングを自動車の部品製造に適用する際の課題や現状の取り組み、今後の展望について、それぞれの立場で意見が述べられた。
日本HPは2020年10月26〜30日の5日間、「HP デジタルマニュファクチャリング サミット 2020」を開催。同イベントのスペシャルパネルディスカッションでは「自動車部品へのアディティブマニュファクチャリングの適用 〜現状の課題と今後の可能性〜」をテーマに、日産自動車 総合研究所 先端材料・プロセス研究所 エキスパートリーダの南部俊和氏と、SOLIZE Products 代表取締役社長の田中瑞樹氏が登壇し、アディティブマニュファクチャリング(AM)を自動車の部品製造に適用する際の課題や現状の取り組み、今後の展望について、それぞれの立場で意見が述べられた。
まず、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響とコロナ禍での取り組みに関する投げ掛けに対して、日産自動車の南部氏は「社内の3Dプリンタを活用し、フェイスシールドや医療器具の製作を行い、必要とする医療機関などへの寄付活動を実施してきた。こういった活動を通じて、あらためて3Dプリンタの持つ“アジャイルなモノづくりの価値”を再認識することができた」と語る。
また、COVID-19の感染拡大により、製造業としてサプライチェーンへの影響も少なからずあったとし、南部氏は「必要なモノを、必要な時に、必要な量だけ供給するという従来の『ジャストインタイム』のモノづくりというアプローチとは異なる、ある程度、必要な予備をあらかじめ備えておくような『ジャストインケース(念のため)』のモノづくりへの対応が今後求められるのではないか」との考えを述べる。
一方、3Dプリンタ/3Dデータを中心とした受託サービスや業務支援などを展開するSOLIZE Productsにおいても、医療現場における物資不足の一報を聞き、3Dプリンタを用いたフェイスシールド用フレームの製造に取り組んできたという。SOLIZE Productsの田中氏は「まず、医療従事者の方にサンプルで作成したフェイスシールドを試着してもらい、使用感などのフィードバックをもらった。そうした意見を基に、最終的にサイズ調節可能なアジャスターを付けたり、さまざまな厚みのシールドに対応したりといった機能を短期間のうちに追加することができた。この活動を通じて、必要な物資が量産され、それが必要としている人に届くまでの“ブリッジ”として3Dプリンタが役立つことを強く実感した」と説明する。
続いて、自動車産業における3Dプリンタ活用の現状についての問いに対して、日産自動車の南部氏は「これまでも試作や治具製作などを中心に3Dプリンタの適用を進めてきたが、近年は特に造形速度が飛躍的に向上しており、自動車にも適用可能なレベルになってきたように感じている」と述べ、期待すべき2つの視点を挙げる。
1つは「少量の部品を安価に製造できる可能性」だ。自動車のモノづくりは型を作り、大量に同じものを製造する“大量生産モデル”が基本だ。「これに対して、3Dプリンタであれば、型を使わずに、生産数によらずに、少量の部品を安く作れる可能性がある。これが1つの大きな変化点になっていくと考えている」(南部氏)。
もう1つが「複雑なモノを安価に製造できる可能性」だ。例えば、自動車の性能を上げる際、複雑なモノを作って性能アップを図ろうとすると、それに伴いコストも上がってしまう。「だが、3Dプリンタであれば複雑なモノを安価に製造できる可能性があり、自動車の性能を飛躍的に向上させるポテンシャルを秘めている。具体的には、小さくて効率の良いパワートレインユニットや音振性能の向上などに、3Dプリンタが貢献できるのではないかと考えている」と南部氏は語る。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.