具体的には、計算条件で炭素繊維の上を流れる樹脂の摩擦抵抗を考慮した他、透明な金型を用意して炭素繊維の上を樹脂がどのように流れるかを明らかにし、パラメータとしてシミュレーションに反映させた。金型に複数の温度センサーを設置し、樹脂の温度変化と流れ時間の計測も行った。
また、CFRP製部品は炭素繊維の重ね方によって強度を確保しているため、シミュレーションでは繊維の密度も計算していたが、実際の成形と結果が一致しなかった。そこで、製品の板厚も考慮し、繊維の厚みと樹脂の流れやすさの係数を算出することでシミュレーションの精度を高めた。
これらの取り組みにより、樹脂含浸のシミュレーション精度が向上。C-RTM工法において最適な樹脂を流す溝や製品の形状をCAEで検討し、金型の試作回数を最小限に抑えることが可能になった。すでにフロントピラーやセンタートンネル、センターピラーをC-RTM工法で生産できることを確認した。これらの部品の素材をハイテン材からCFRPに置き換え、マルチマテリアル化を進めることで従来の材料構成から80kgの軽量化が達成できる見込みだ。
これまでCFRP製部品は、一部の車種での採用や、車体の中での部分的な適用にとどまっていた。その理由について日産自動車 取締役 執行役副社長の坂本秀行氏は「生産プロセスの複雑さによるコストの高さの他、複雑な形状となる車体構造に用いるには成形性に課題があった。また、品質を安定させる難しさや、アルミニウムや鉄など金属材料との接合もハードルだ」と語る。CFRP製部品のコストは、スチール製の10倍にも上るという。
ただ、車両に電動化技術を搭載するに当たって軽量化の重要性が高まっており、CFRP製部品の採用拡大に取り組む必要があった。「車両サイズの大きいクルマを電動化する場合、走行距離を伸ばすために大きなバッテリーを使うが、バッテリーそのものの重さや、バッテリーを衝突から保護するために車体が重くなってしまい、かえって走行距離に影響するというジレンマがある。ハイブリッド車であっても、車体の重量によってエンジンやエネルギー回生の限界値が決まってしまう。CO2削減目標を達成するには、電動化だけでなく軽量化も必要だ」(坂本氏)。
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