MONOist メーカーがAIカメラなどの各種デジタルツールを活用してマーケティングを展開する際、重視すべきことは何でしょうか。
中村氏 まずはPoC(概念実証)の段階で、流通とメーカーの目的、認識をすり合わせることが大事だ。検証の中では、単純な売り上げの増減にのみ注目するのではなく、導入のROI(費用対効果)を考えていかなければならない。ただ、実はこの部分は検証しづらい。
例えば棚の欠品には従業員のオペレーションの他、流通上のトラブル、商品によっては時期的な理由で品薄になるなど、さまざまな要因が絡んでくる。このため、AIカメラの導入後に棚の欠品率が改善しても、それが本当にAIカメラを導入した効果なのかというと、そうとも言いきれない場合もある。また、欠品状況を確認するための手間というオペレーションコストを下げたからと言って、それがAIカメラ導入のコストと見合うかどうかは要検証だろう。これらをいかに評価しやすくするかという点については、今後の課題になると考えている。
もう1点は、マネタイズの道筋をしっかりと付けることだ。PoCはスモールスタートで始めるのが望ましいが、そのコスト感で実際に運用できるわけではない。AIカメラのメーカーは、PoC期間中は低コストでAIカメラを使わせてくれるが、実際に導入する際には当然正規料金を要求してくる。コスト感が異なってくると、他のメーカーも流通/小売業者もプロジェクトから離脱してしまい、成立しない。こうした点には注意すべきだろう。
ちなみに、トライアルのAIカメラは自社グループ内で開発を行っていることもあり、導入コストを抑えられた。
MONOist 今後、貴社としてはリテールAIをどのように事業に生かしたいと考えていますか。
久松氏 将来の理想的なマーケティング像としては、画一的なアプローチを顧客に仕掛けるのではなく、理想的なタイミングで、理想的な商品やサービスを提供していく体制を整えていきたいと考えている。この点、リテールAIは「顧客が売り場で何を考えているか」を明らかにできるので役立つと考えている。
中村氏 ただ、AIカメラの認識精度向上は今後の課題になると思う。例えば、円柱形の商品を画像認識する場合、現在のAIカメラでは商品の向いている方向によって判別精度が大きく変動してしまう。
AIの認識精度を決めるのは学習データの量だ。そう考えると、今後のリテールAIにとっては、メーカーだけでなく卸や流通も容易にアクセスできるような、公共インフラとしての商品マスターデータの整備が課題となる。行政などはこうしたインフラ構築の重要性を訴えているものの、実際には企業間での利権が絡むため難航しているように思う。
冒頭でも述べたが、アルコール類の市場は年々縮小傾向にある。自社の限られたリソースを駆使してどれだけ生産性を高められるかが鍵で、その際にデジタル化は大きな力を発揮することになると思う。
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