前回取り上げた橋脚の例でもよいかと思ったのですが、破壊でもされない限り目に見えるような変形も起こらなそうなので、別のものにすることにします。
今回は、単純なモデルで“比較的薄い板が強風であおられたときの変形”を考えてみたいと思います。このケースであれば、変形のたびに風の流れも変わるので、逐次流体と構造の間を連成解析でアップデートしつつ解析する意味があります。
解析に使用するソフトは、MSC Softwareの「Marc 2020」と「scFLOW 2020」です。これに2つのソフト間をつなぐ「CoSim 2020」を使います。
ということでやってみましょう! ちなみに、別々のソルバーで流体と構造、それぞれの解析を行い、結果の受け渡しをやっているので弱連成といえます。肝心のモデルですが、今回は図1の通り、オートデスクの「Fusion 360」でざっくりと作ってみました。
解析モデルも簡単にしたいので、ベースとポールは別部品にしていますが、ポールとパネルは一体化させています。
解析用のメッシュは、図2のようにベースやポール/パネルともにヘキサメッシュで要素を作成しています。
次に、境界条件ですが、先ほど述べたようにベースの底面部分は固定しています。外力は風圧のみ(重力は考慮しない)なので、構造解析だけであれば、想定する圧力を風の当たる部分にかけることになりますが、今回は、流体解析で計算された圧力を受け取るため、どの面に荷重を定義するかのみを設定します。
なお、材料物性はベース部分に「コンクリート」、中空のポールとパネルには「アルミ」を定義しました。今回は、大変形を考慮した非線形解析を行いますが、材料非線形性については考慮しないので、大きく変形しても破断せずにどこまでも変形することになります。ベースとポールの接触については「接着接触」とします。
流体解析のモデルは、図4のようにしました。
図4の左側の側面から風が流入します。解析空間は、今回はあくまでも連成解析のサンプルを示す目的なので比較的小さ目にしています。
解析条件の設定に関連して、流体解析では非定常の流れの解析を0.5秒分行います。また、実際に構造解析にデータを渡す前に0.1秒分の助走解析を行いました。流体解析から構造解析に送るデータは圧力値で、逆に構造解析から流体解析に渡すデータは構造物の変位情報なので、それらの設定も併せて行います。なお、構造解析側は「動的過渡応答解析」として設定を行います。
解析結果は図5、図6の通りです。
ここで示されているような変形は、風の方向に素直に押されているような変形であり、結果の傾向としてはまずまずだと思われます。
比較的きゃしゃな構造ではありますが、風速20mというと台風の強風域のような風で、目に見える変形量はあっても破断するような状態にはならないはずで、結果の妥当性もまずはOKかと思います。とはいえ、実験が可能な場合はもちろん、難しい場合も結果をうのみにせずに条件を確認したり、変更したりしながら“解の妥当性を見極める”ことが重要です。
ただ、いずれにしても、流体、構造双方の解析ソフトに対してアクセスすることができて、かつ、それらの間を連成させることができるソリューションがあるのであれば、連成解析にトライする価値は十分にあると思います。 (次回に続く)
水野 操(みずの みさお)
1967年生まれ。mfabrica合同会社 社長。ニコラデザイン・アンド・テクノロジー代表取締役。3D-GAN理事。外資系大手PLMベンダーやコンサルティングファームにて3次元CADやCAE、エンタープライズPDMの導入に携わった他、プロダクトマーケティングやビジネスデベロップメントに従事。2004年11月にニコラデザイン・アンド・テクノロジーを起業し、オリジナルブランドの製品を展開。2016年に新たにmfabrica合同会社を設立し、3D CADやCAE、3Dプリンタ関連事業、製品開発、新規事業支援のサービスを積極的に推進している。著書に著書に『絵ときでわかる3次元CADの本』(日刊工業新聞社刊)などがある。
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