流体解析をテーマに、入門者や初学者でも分かりやすくをモットーに、その基礎を詳しく解説する連載。今回は話題を変えて「圧縮性の流体」について取り上げる。
前回は「ファンの基礎」について取り上げたので、引き続きファンの解説を進めたかったのですが、諸事情により準備が間に合わなかったため、申し訳ありませんが今回は別ネタで行きたいと思います。今回のテーマは「圧縮性の流体」です。
突然ですが、空気は「圧縮する」ことができます。固体のような物体と違って、空気のような流体は圧力によって質量密度も変化します。普段あまり意識することはありませんが、空気の密度は案外変化するものです。
飛行機の操縦などをすると結構認識することなのですが、標高の高い空港からの離陸や、真夏のように暑い時期の離陸は特に気を使います。また、プロペラ機の場合、燃料の混合比をマニュアルで調整することがありますが、海抜0mに近いところと、1万フィートでは話が違います。これはつまるところ、同じ体積当たりの分子の密度によるものです。
もっと身近な例だと、空気を熱すると浮力により、自然対流が発生しますが、これも密度の変化によるものです。ちなみに、非圧縮流体を使った解析でも浮力を扱う場合がありますが、これはブシネスク近似などを使ったもので、流体の密度変化そのものを考慮しているわけではありません。
ところで、流体解析(CFD)により流れの解析を行う際、このような特徴を持つ空気も、実は非圧縮性の流体として扱うことがほとんどです。本来、空気のような気体か、水のような流体か、あるいは構造解析で扱うような固体なのかは関係なく、圧力によって体積は変化するもので、質量密度も変化します。ちなみに、どのくらい圧縮されるのかという程度、つまり圧縮性は以下のような体積弾性係数で表すことができます。
ここでEが体積弾性率、Ρが圧力、ρが体積です。一般的にEが固体や水のような液体の場合、非常に大きな数値になるため、とてつもない圧力が与えられない限り、考慮に値する体積変化(あるいは密度変化)はめったにないと考えてよいでしょう。空気のように液体や固体と比較して密度変化が大きい場合でも一定の条件下においては、非圧縮の物体として意識して解析することがほとんどです。この連載でも、これまで空気は非圧縮の流体として取り扱ってきました。
なぜなら、流体が非圧縮であると近似した方が、計算を大きく簡略化できるからです。つまり、エンジニアリング的に無視しても構わないような誤差であれば、計算コストを下げることを優先した方が理にかなうというわけですね。
このような想定は、流れの速度が十分に遅いときや、温度の変化が比較的小さいときに成り立ちます。そして、私たちが扱う多くの問題は、この範疇に入ってくることが多いため、空気を非圧縮の流体として扱うというわけです。
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